シルヴィア=オールディスは、頭の良い子供でした。
学校での成績は常にトップクラスでしたし
優秀な生徒会会長として学校に貢献したりと、皆の模範となるように務めました。
でも、こうした努力の陰には、理由があったのです。

シルヴィアは8歳、ラルは6歳になり、ラルも小学校へ入学する年頃になりました。
この頃、近所の子供たちは、ラルの事を「尻尾の生えた普通の女の子」としてすっかり受け入れていましたが
子供たちの親は、ラルの親、そしてラルの事も、あまり面白くは思っていませんでした。
「なぜ?」と問われると、やはり「悪魔だから」としか言いようがないのです。
悪魔に対する恐怖心は、人々の根底に深く根付いており、そう簡単にはほぐれる問題ではなかったのです。
そういった事もあり、やはり半人半魔のラルは、すんなりと小学校へ入学する事は出来ませんでした。

フィオナ王国には、小学校は1つしかありません。
アルヴィン2世の時代に、小学校、中学校、高校、大学の一貫学校がフィオナ王国に出来ましたが
元々は上流階級の家庭の子供しか入学は許されませんでした。
それも、主に軍部への仕官や政治家への就任としての意味合いが強く、、この一貫学校を卒業すると、軍や国の上層部に自動的に配属が決まります。
つまり、上流階級の子供は、一生上流階級として生き、そうでない子供は、いくら努力しても、それなりの生活しか出来なかったのです。

しかし、アルヴィン5世の世代に大改革が起こります。

アルヴィン4世の世代まで、フィオナ王国は家系による前述の階級差別が横行していましたが
アルヴィン5世が、后として低層家庭の女性をめとった事で、フィオナ王国の意識は大きく変わりました。
階級社会の崩壊、軍部、国務の一般開放化、クレメンスへの受注増加など、数えれば数限りなくありますが
その後、現国王のアルヴィン7世の世代に至るまでに、国民意識は次第に民主的な社会へと普遍化していく事になりました。
それと同時に、当初複数あった学校は、「国民差別の象徴になる可能性がある」として
上層家庭の子供も、低層家庭の子供も、すべからく同じ教育を受けられるよう
義務教育制度が発足し、軍教育や国務教育等の特殊教育は最低限のものとした合理化が進み
現在、教育の初期課程である小学校は、1つしかなくなったのです。

すなわち、フィオナ王国中の子供(とは言っても、国民人口自体はそこまで多くないです)は、年齢が達すると
この小学校に入学する事になり、半魔であるラルも、当然この小学校へ入学する事になるはずなのですが
悪魔が学校に入った前例がないと言う事で、手続き上、いわゆる「悪魔が入学していいのか?」と言う問題が起こったのです。
それに、いくらメルとラルが人間と変わらない心を持っているとは言え、親達は不安に思いますし、子供達にもその不安は広がります。
悪魔を排斥し建国した歴史のあるフィオナ王国ですから、「万が一の事が起こらないとも限らない」、そう思ってしまうのです。

しかし、家族ぐるみの親交のあるオールディス家を筆頭に、ラルと仲の良い子供達の家庭の訴えにより
(オールディス家以外の家庭は、「本当は協力したくはないが子供達の手前仕方ない」と言うレベルになりますが)
一応は入学が可能と言う運びにはなりましたが、やはり、異分子であるラルへの風当たりは強いものとなります。
面識のない多数の子供達は、尻尾のあるラルを最初は物珍しく見て近寄りますが、悪魔だと言う事が分かると、避けるようになり
その親達は、ラルダンとメル、特にメルに対して異端の目を送るようになりました。

一番つらいのは当人のラルですが、面白くないのはシルヴィアです。
ラルの一番の友達、そして姉として慕われてる自分に、何も出来ないのが悔しくて仕方なかったのです。
シルヴィアは、どうにかしてこの学校の意識を変えてやろう、次第にそう思うようになりました。

学校を自分の味方につける、そしてラルを窮地から救う、その条件を満たす手っ取り早い方法は
すなわち、生徒達のトップになり、そのトップの自分が、ラルと仲良しだと言う事を広く知らしめる。
そうすれば、皆ラルを怖いものだと思わなくなるし、それと共に、ラルやメルのような悪魔に対する意識も次第に変わっていく、そう考えました。
生徒達のトップ、それは生徒会会長だ、と、シルヴィアはスライド式に答えを出していきました。

しかし現実に生徒会会長になるには、生徒会へ入り、教師や生徒の信頼を得、その後、選挙によって選ばれる必要があります。
そのために、シルヴィアはなりふり構わずに努力をしました。
成績はオールA、周りに対する気配り、時には教師にこびを売ってでも信頼を得ようと努力をしました。
全ては妹のラルのため、そう思い日々を駆け抜けていきました。

でも、ある時、聞いてしまいました。

女生徒A 「シルヴィアが会長になろうと頑張ってるのって、あのラルのせいらしいよ」
女生徒B 「ああ、あの悪魔の?うざいよね、アイツ」
男生徒A 「あれは何?親が悪魔で…と言うか、それで何でシルヴィアが頑張ってるの?」
女生徒A 「ラルがシルヴィアを慕ってるんだってさ、そのせい」
男生徒B 「えー、シルちゃんアイツにだまされてるんじゃないの?悪魔だし」
女生徒C 「うちらが悪魔なんかと仲良くなるわけないのにね」

それを聞いて、シルヴィアは爆発してしまいました。
目の前が真っ赤になり、心の底から沸きあがってくる物を全てぶちまけ、その場に居た生徒を言葉の暴力で圧殺していきました。
騒ぎを聞き、ワラワラと人が集まりだし、シルヴィアは学校中に響かんばかりに烈火のごとく叫びました。
誰もが、いつもの、静かで優しいシルヴィアと違う、情熱の塊であったシルヴィアを知る事となりました。

しかしその時、怒りが最高潮に達した時、シルヴィアはハッと気付きました、誰かが自分を抱きしめている事を。
それはラルでした。

ラルがシルヴィアを抱きしめ、「ごめんねごめんね」と泣き、繰り返し謝っているのです。
それに気がついたシルヴィアも、その場に崩れ、大声で泣いてしまいました。
それを見た、ほぼ全校の教師や生徒が、ラルに対し自分達がひどい過ちを犯していた事を知り
そして、それをシルヴィアによって気付かされたのです。

その日から、ラルに対する批判や差別はなくなっていき、逆に友達が増えていきました。
そしてシルヴィアは、その場に居た生徒達から多大な支持を受け、多数の推薦により、なんと生徒会会長になってしまいました。
目的自体は生徒会会長になる前に、すでに達する事となっていたのですが
生徒会会長になってしまったからには、いい加減な事は出来ないと、毎日努力を続けるシルヴィアなのでした。

今度は自然体で。



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