フィオナ王国の人々は、花火が大好きでした。
中でも、シルヴィア=オールディスとラル=アルカードは、花火に対して特別な思いがありました。

シルヴィアとラルがまだ幼い頃、2人が住むフィオナ王国は
東方の国「ジパン」と、友好的な国交を始めるに至りました。
現フィオナ国王(アルヴィン7世)の父、アルヴィン6世は
アルヴィン5世が築いた(ようやく基礎を固めるに至った)政治的基盤を拡大させるため
自国のみの発展力だけでは限界がある事を悟り、対外に目を向ける必要がある、そう考えました。

メリエル大陸にある国は、大きく分けて4つあります。
ひとつはメリエル大陸最大勢力である「フィオナ」。
フィオナと同時期にメリエル大陸に進出した、フィオナの実質的なライバル国である「アルダス」。
メリエル大陸の原住民が寄り合いを作り暮らしている、他3つの国に干渉しない方針の「ベリンダ」。
そして、メリエル大陸中に散らばる悪魔達の総本山である「ザンティピー」。
ザンティピーはあらゆる勢力を敵対視しています。

メリエル大陸は、ベリンダを除くと、三すくみの状態にあります。
フィオナとアルダスは、お互いを優位に置くため、ベリンダを勢力に取り込もうとした時期がありましたが
原住民達の寄り合い精神は強く、「仲間にもならないし敵にもならないが、領土に侵入した場合排除する」という
完全な独立国として文化を持っており、実際原住民達の結束は非常に、そして異常に固く
言葉での交渉は不可能であり、武力での支配は国力を消耗しすぎると判断し、両者は手を組む事を諦めました。

悪魔の総本山であるザンティピーは、人口自体は少ないのですが、悪魔と言う固有種族の能力は強力であり
悪魔の基本的な思想として、人間とは決して相容れないもの(メルやラルは極めて異例)なため
フィオナとアルダスは、ザンティピーに対し、常に警戒を余儀なくされています。

つまるところ、アルヴィン6世が目を向けたのは、海の向こう、すなわち海外の国々です。

発端となったのは、アルヴィン王室の外交部門の一人である「コロ=ポー=ルーマ」が「チュゴ」と言う国に訪問した際
「ジパン」と言う国が存在し、独特の文化を持っていると言う噂話を聞いた事に始まります。
コロ=ポー=ルーマが、ジパン国を黄金に匹敵する価値がある国だと(大げさに)アルヴィン6世に伝えた事により
アルヴィン6世はフィオナを発展させるため、そしてアルダスをはじめとした国々を凌ぐために、ジパンに向けて沢山の船を走らせました。
多くの船は航海が難航し、帰還するハメに陥ってしまいましたが、何隻かの船は迷走しながらもジパンにたどり着き
航海図に正式なルートが刻まれた事を期に、アルヴィン6世とジパン領主(ダイミョウ)は、国書を何度かやり取りするに至り
ついにフィオナとジパンは国交を結ぶ事に成功したのです。

その後、フィオナにはジパン人が、ジパンにはフィオナ人が出入りするようになり、お互いの文化を伝え合いました。
住居、食べ物、鉱物、技術、言葉など、数えれば限りない事になりますが、その中のジパンの技術のひとつとして「花火」がありました。

ジパン人は暑い季節になると、河川などに、花火職人達が、沢山の火薬が詰まった丸い火薬玉を持ってきて
その火薬玉を、同じく火薬を推進力に高く打ち上げ、空中で火薬玉を炸裂させ、その散らばる色とりどりの火花を
大勢の人が集まって見て、楽しむと言う風習がありました。
そして今では、その風習はフィオナにも伝わり、暑い季節になると、フィオナ中の花火職人達がこぞって、涼しい季節にしたためた花火玉を
フィオナのエーリアル地方にある「クレメンティーナ湖」で盛大に打ち上げるのです。

職人達の中から、毎年、すばらしい花火を打ち上げた、男性職人に贈られる「キング・オブ・ハナビ賞」、女性職人に贈られる「クイーン・オブ・ハナビ賞」
そして、観客と審査員から最高の評価を受けた花火を打ち上げた職人に贈られる「ベスト・オブ・ハナビ賞」が選ばれるのですが
毎年のように「ベスト・オブ・ハナビ賞」を贈られるのが、ジパンの花火会社「チーム戦闘龍(バトルドラゴン)」のリーダー、「リョウバ=ヤマモト」です。

リョウバの作る花火は、力強く、それでいて人々の心を癒すような、優しく繊細な色彩が特徴です。
毎年、フィオナの人々は、リョウバの作る花火を楽しみにしていました。
シルヴィアとラルも例外ではなく、リョウバの作る花火が大好きでした。

そして今年も、花火大会の日がやってきました。
花火大会は夜8時から始まり、10時までの2時間、何千発もの花火が打ち上がります。
そのため、人々は夕食を早めに済ませ、5時や6時から場所取りを始めるのです。

シルヴィアとラルは、この頃はまだ体が小さかったため、最前列にちっちゃいスペースを作り
ちょこんと座って、ポップンコーンを食べながら、花火大会が始まるのを待っていました。
毎年、家族と一緒に観賞するのが通例でしたが、今年は親達の仕事が少しおしていたため
最後列のスペースで観賞する事になりそうだったのですが、「リョウバさんの花火を近くで見たい!」と思ったシルヴィアとラルは
ふたりで早めに場所取りに出かけたのです。

ただ、今回はあまりにも早く来すぎたため、花火職人達が打ち上げの準備をしているのを間近で見る事が出来ました。
その中には、あの(あこがれの)リョウバの姿もありました。
リョウバは、小さい女の子ふたりが、ジッと自分を見つめている事に気がつき、気さくに声を掛けました。

リョウバ 「やあ嬢ちゃんたち早いねえ、花火大会は8時だぜ」
シルヴィア「う、うん、早く来すぎちゃったけど…でも準備してるの見てるのも楽しいよ」
リョウバ 「そうかいそうかい、花火好きかい?」
ラル   「うん、キレイで大好き。リョウバさんの花火が一番好きだよ」
リョウバ 「ありがたいねえ、毎年ジパンから来る甲斐があるってもんだよ」

シルヴィアは、疑問に思っていた事を聞きました。

シルヴィア「あのさ、花火って、どうやって作るの?」
リョウバ 「ああ、この…ああ、こいつだ、この丸い玉があるだろ?この中に、小さい火薬の玉をぎっしり詰め込んでな、それを炸裂させるのさ」
ラル   「へえ…何か作るの大変そうだね」
リョウバ 「ああ、この小さいやつで作るのに1週間かかる、大きいのだと3週間かね」
シルヴィア「3週間!」
ラル   「へー…」
リョウバ 「まあ、そいつも打ち上げたらたった数秒で全部終わっちまうわけだが、その数秒に俺達は全てをかけるんだ。
      人生と同じさね、力いっぱい物事に注いで、そしていつか花咲く時が来るってわけさ。
      嬢ちゃんたちもさ、力いっぱい生きなよ、いつか花咲く時がくるさね」
シルヴィア「うん、ありがとう」
リョウバ 「じゃあな、また機会があったら会おうぜ。今年の花火はすごいぜ」
ラル   「ハナビ賞、とってね!」
リョウバ 「ああ、ありがとよ!」

そして花火大会は始まり、色とりどりの花火が、夜の暗い空を明るく染めました。
2時間の夢の時間はあっという間に過ぎ、ベスト・オブ・ハナビ賞は、今年もリョウバが獲得し、花火大会は幕を閉じたのです。

そして一年後、再びフィオナに暑い季節がやってきました。
今年もリョウバに会えるかな?と言う期待を込めて、シルヴィアとラルは、花火大会の日、最前列に場所を取りました。
しかし、どこを見回しても、リョウバの姿はありません。
シルヴィアとラルは、近くに居た「チーム戦闘龍」の人に聞いてみる事にしました。

シルヴィア「あの…今年はリョウバさん来ないの?」
??   「ああ…親父は来ないよ」
ラル   「親父?」
リョウガ 「俺はリョウガ、リョウバの息子さね。親父はね、死んだんだよ」
シルヴィア「えっ…」
リョウガ 「去年の秋かな、今年の花火大会に向けて、花火の十号玉を作ってる時に、過って火薬を炸裂させちまってね
      フィオナの人達には申し訳ないけど、もうリョウバは来ないのさ」
ラル   「そんな…」
シルヴィア「リョウバさんが…」
リョウガ 「あはは、嬢ちゃん達、勘違いするなよ、親父は花火職人としては死んだけど、命を落としたって訳じゃないんだ」
ラル   「えっ生きてるの?」
リョウガ 「ああ、利き腕の右手が吹っ飛んじまって、もう花火を作る事は出来ないけど
      その代わりな、俺達若いやつらに、今まで培ってきた花火のノウハウを教えるために、後方支援に回ったのさ
      今は教鞭を取って、毎日俺達に花火の事を教えてるよ」

リョウバは生きている、シルヴィアとラルはそれを聞いてほっとしました。

リョウガ 「俺達の技術は、まだ親父には全然及ばないけどさ、親父はいつも言ってたよ
      力いっぱいやれ、いつか花咲く時がくるからってね」


シルヴィアとラルは、毎年暑い季節が来ると、その事を思い出します。
力いっぱい生きろ、リョウバの言葉を思い出しながら、日々生きているシルヴィアとラルなのです。



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