ヴィヴィア=エアハートは、フィオナ王国城下町の東側に位置し、星の良く見える高台にある
「アッシュ高原エルシー区(通称アッシュ街)」に生まれました。
父は、元フィオナ騎士団第5隊副長を勤め、現在は第5隊の剣術指南役をしている豪の者で
母は、そんな夫を誇りに思い、二人はとても愛し合っていました。
その二人の間に生まれたのが、一人娘のヴィヴィアです。
二人は、ヴィヴィアが生まれた事をとても喜び、大切に育てる事を誓いました。
ヴィヴィアの父は、自分が持っている物を全て娘に伝えたいと思い
ヴィヴィアが幼い頃から、自分が打ち込んできた剣術の事や、騎士道の事、母との出会いの事
戦争の醜さ、平和の大切さなどを、おとぎ話の様に、毎晩星の海の下でヴィヴィアに話しました。
そのおかげで、ヴィヴィアは、まっすぐで、とても正義感の強い子供に育ちました。
とは言っても、そこはさすがに女の子です。
かわいい洋服は着たいし、甘いおかしは好きだし、ネコはかわいいし
近所の男の子と遊ぶ事はあっても、間違っても木剣を振り回したりと言う発想は出てきませんでした。
ヴィヴィアは、星を見る事が好きでした。
小学生になり、両親と別々に一人で寝れるようになった頃、毎晩星座を追いかけながら、幼い頃、父親が話してくれた事を思い出していました。
しかし、星を見るのが好きだったおかげで、まさか父親のように、自分が騎士になるとは、まるで思いもしなかったのです。
ヴィヴィアが中学校3年生の頃、アッシュ街に妙な噂が立ちました。
「最近、フィオナ王国に盗賊が現れる」、と言う噂です。
アッシュ街の人々は、このまゆつば物の噂を信じるべきか迷いましたが
万が一被害にあっては大変と、夜は早く、家のドアにかんぬきをかけるようになりました。
しかし、人々がドアを閉め切り、すっかり暗くなった街に、一つだけ明るい点がありました。
それは、ヴィヴィアの部屋の窓です。
毎日の日課にしていた星座観察のために、2階にある自分の部屋の窓を開け、星を眺めていたのです。
いつもの通り、北斗七星の星の数を数え終わり、さて寝ようか、と言う時に、悲痛な叫びがヴィヴィアの耳に入りました。
??「まってよーーー!それ返してよーーー!」
ヴィヴィア「な、なに!?」
窓を閉めかけたヴィヴィアが、声のする方に目をやると、赤い髪で、「尻尾のある女の子」が走っていくのが見えました。
その女の子が叫びを向けている方に目を向けると、黒尽くめの男が、猛スピードで逃げて行くのが見えました。
ヴィヴィアは、男の後ろを走っている、尻尾のある女の子に心当たりがあります。
確かあの女の子は、小学校の後輩で、ラル=アルカードと言う…悪魔の女の子?でした。
ラル「それがないと…私シルヴィアと一緒に居られないんだよぉ!」
ラルは、泣きながら黒尽くめの男を追っています。
ヴィヴィアは、自分には関係ない…と、一瞬は思ったのですが、昔から父に聞かされていた、「騎士道精神」が敏感に反応してしまい
気がついたら、家のかんぬきを外し、男とラルの後ろを追いかけていました。
何しろ、ラルが困っているのを見つけたのは(多分)私だけ、私が何かしなければ、と思ってしまったのです。
ヴィヴィアは、実はスポーツが万能でした。
思想や趣味こそ女の子のそれでしたが、騎士団副長まで勤めた父の身体能力は、ヴィヴィアに遺伝していたのです。
あっという間にラルに追いつき、ラルに問いかけました。
ヴィヴィア「はぁはぁ、えーと…はぁ、ラルちゃん?だよね、どうしたの?」
ラル 「え、あ、あの…はぁはぁ、あいつが…シルヴィアの、ペンダント奪って…はぁ…あれがないと…」
ヴィヴィア「シ、シルヴィア…?(誰だっけ?)と、とにかくあいつが何か盗って…?はぁ、あいつを捕まえれば、はぁ、いいのね?」
ラル 「う、うん…あれがないと、はぁ、私…」
細かい事情は良く分かりませんが、前を走っている男が、この子の大事な物を取って逃げている、と言う事は分かったので
とにかく前を走る男を捕まえれば、事は解決する、と言う事は分かりました。
ラルと一緒に男を追いながら、ヴィヴィアは「しめた!」と思いました。
幸い男は、アッシュ街の地理にはそこまで詳しくない様子で、この調子で走って行けば、袋小路に当たるのです。
そして男は、ヴィヴィアの思惑通り、袋小路に出くわしてしまい、立ち往生しました。
ヴィヴィア「はぁはぁ…ちょ、ちょっとあなた、この子の物返してよ!」
ラル 「はぁはぁ」
男 「ちっ、面倒だ」
男は、ラル目掛けて突進して行きます。
その手には、刃のこぼれた短剣が握られていました。
瞬間、ヴィヴィアは、落ちていた、野球ボール大の石を、思い切り男に投げつけ、男をひるませました。
そして、ヴィヴィアの体重を乗せた左拳が、男のみぞおちに当り、男は苦悶の声を上げうずくまりました。
ヴィヴィアの流れるような攻撃は止まりません、うずくまった男の顔を、渾身の力を込めて右脚で蹴り上げ、男は、あっと一声上げて気絶してしまいました。
ラル 「はぁはぁ…お姉ちゃん、すごい…」
ヴィヴィア「う、うん、はぁ…自分でもびっくりした…あ、え、と、ペンダント?これかな…」
ヴィヴィアは、男が蹴り上げられた拍子に落とした水色のペンダントを広い、ラルに差し出しました。
そしてヴィヴィアは、大きな声で、暗い空間になっている家々に助けを求め、それを聞いた人達が何だ何だと駆けつけ
男はがんじがらめにされ、フィオナ王国騎士団に突き出される事になりました。
この男が、最近フィオナ王国を騒がせていた、盗賊の一味である事は、翌日分かる事となります。
ヴィヴィア「ええと、で、ラルちゃん、事情を詳しく話してくれる?私も何があったか知りたいんだ」
ラル 「うん、えっとね…」
ラルは、自分がラヴィニア族の悪魔と人間とのハーフである事を明かし、シルヴィアと一緒に居るためには
ブライアンがくれた、ブライアン制作のペンダントが必要な事を話しました。
しかし、クレメンタイン街から家に帰る途中の夜に、突然、この男が後ろからシルヴィアを突き倒し、ペンダントを奪っていった、と言う事です。
実は、シルヴィア達とブライアンとの会話の一部始終を、捕縛した盗賊の男は聞いていたのです。
コールフィールド家は学者・芸術家の家系であり、その子息のブライアンも才覚に溢れた青年です。
この盗賊は、以前よりコールフィールド家の財産をマークしており、ブライアンを監視していたのです。
コールフィールド家の手製のペンダントとなると、売り払えばそれなりの値がつく事は間違いありません。
その為、相手が女の子二人と言う絶好の機会を得たため、そのペンダントを奪おうとしたのです。
ヴィヴィア「そうなんだ…あれ?で、その、シルヴィアさんは?」
ラル 「途中まで一緒に追いかけてたんだけど…シルヴィア体弱いから、途中でバテちゃって…。
多分、今はフィオナ騎士団に通報しに向かってると思うんだ」
ヴィヴィア「そっか…じゃ、早く戻って、安心させてあげないとね」
ラル 「うん、でもお姉ちゃん強いね、騎士みたいだったよ」
ヴィヴィア「あはは、そうかな?うん、じゃあ、とりあえず騎士の仕事として、ラルちゃんを家まで送っていくね」
ラル 「ほんと?ありがとう!」
そして、ヴィヴィアとラルが、シルヴィアとラルの家の近くまで来た時
向こうから来た、完全に疲れきっているシルヴィアと出会い、ラルはヴィヴィアに助けてもらった事をシルヴィアに話しました。
シルヴィアは心の底からヴィヴィアに感謝の念を伝え、ヴィヴィアは照れながらもそれに応じました。
そしてヴィヴィアは、この事件をきっかけに、騎士の道を目指し始めるようになります。
騎士になれば、人を守り、人を救う事が出来、自分にはそれが出来る可能性があると、そう悟ったのです。
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