元フィオナ王国騎士団第67924号隊員・第1隊特殊工作部隊所属。
それが彼、ミルディン=モーズレイでした。

モーズレイ家は、フィオナ王国建国時から代々続いている、名門騎士家系の一つです。
ミルディンの父親、ダレル=モーズレイも、かつてはアルヴィン6世直属護衛隊「セブンス・ナイト」の一人として名を馳せた、名騎士です。
その子であるミルディンは、父親を誇りに思い、将来は自分も立派な騎士になろうと決意していました。

ミルディンは、ステュークス・フィオナ王立大学時代に、アルヴィン7世とブライアン=コールフィールドの1年後輩として
フィオナ王国城下町で人気のレストラン、「ブラックソーン」で、食事に同席した事が何度かあります。
「ブラックソーン」は、メリエル大陸からジパンの食事まで、幅広く提供している事で知られています。

ウェイトレス「いらっしゃいませ、ご注文をお受けいたします」
アルヴィン 「ええと、俺はカレーライスで」
ブライアン 「私はハンバーグステーキとライスで」
ミルディン 「あ、じゃあ僕はエビチャーハンとコンソメスープで」
ウェイトレス「かしこまりました」

食事をしている中で、アルヴィンがカレーをスプーンに乗せたまま言いました。

アルヴィン「え、じゃあ何、ミルディン君は騎士になりたいの?」

スープを混ぜながら、ミルディンが答えました。

ミルディン「はい、ええ…と言うか、うちの家系って皆騎士になってて、それじゃあ僕もと自然に思っちゃって」

ブライアンが、ハンバーグをナイフで切りながら言いました。

ブライアン「それは関心しませんね、本当に自分がしたい生き方を、自分自身で見つけないといけませんよ」
アルヴィン「そう言うなよ、俺だって王様なんかめんどくさいけど、将来ならざるを得ないんだからさ」
ブライアン「では、あなたは出家しなさい、僧は良いですよ」
アルヴィン「いや、それはないわ…僧の何が良いのかよくわからんし」

ミルディンがにやにやと話を聞いているところで、ブライアンが言いました。

ブライアン「冗談はともかく、もし騎士と言う職業を目指すなら、何か目標、そうですね、自己を確立しなければ自滅しますよ」
アルヴィン「それはそうだね、ブライアンも実は騎士を目指してるんだけど、メリエル大陸から戦争をなくすのが目標らしいよ」

ミルディンは驚きました。

ミルディン「ほんとですか?それはまた…すごいですね」
ブライアン「すごくはないと思いますよ、騎士と言うのは人命を守る職業で、その最たるものが戦争の絶滅、当然の事です。
       騎士は人のためにあるもので、利益のために動くものではありません」

アルヴィンはカレーをライスにまぶしながら言いました。

アルヴィン「まあ実際にアルダスの王様とか、そういうのと話したりするのは、俺とか親父になる訳だけど
       話し合う布石とか、戦争の抑止力として騎士があるんだよね、つまり王様と騎士は一蓮托生なわけだ。
       俺達も、あんまり自分にも相手にも怪我させたくないタイプなわけ。
       でも、もし剣を振るわざるを得ない時は」
ブライアン「誰かを守るために、と」
アルヴィン「セリフとるなよ、そう言う事で、騎士の人達には、ブライアンも言ったけど、誰かを守るために動いて欲しいんだな」

「誰かを守るため」、ミルディンはこの時、自分が騎士になった時の目標を得た気がしました。
それはまだ漠然としたものでしたが、ミルディンの心には一筋の光が差し込みました。

―3年後、フィオナ王国騎士団第1隊宿舎。

ミルディン「ブラッドリー隊長、お呼びですか?」

ミルディンは、フィオナ王国騎士団第1隊隊長のブラッドリー=ミルズに呼び出され、隊長室のドアを叩きました。

ブラッドリー「あー、入りなさい、ミルディン君」
ミルディン 「失礼します」

第1隊隊長ブラッドリー=ミルズは、スラッとした長身に白い肌を持ち、銀髪の長い髪を後ろで束ねています。
目は鋭く、その切れ長の目で見られると、「魂を抜かれるような」気がすると言われています。
ブラッドリーは、窓の近くに立っていました。

ブラッドリー「そこの椅子にかけなさいミルディン君。
        あー、そう、君の活躍、まあ隊の模擬戦だが、剣術の冴えといい、戦術の組み方といい、すばらしいと思ってね」

ミルディンは、自分が評価された事を素直に喜びました。

ミルディン「ありがとうございます」

ブラッドリーは、窓にブラインドをかけ、ミルディンの対面にある自分の椅子に座りました。
昼間とは言え、室内が多少暗くなり、ミルディンは少し緊張しました。

ブラッドリー「で、だ、突然ですまないが、君には、第1隊の特殊工作部隊に入ってもらいたいと思っているんだ」

「特殊工作部隊」、ミルディンには聞きなれない言葉でした。

ミルディン「特殊工作部隊とは…?」

ブラッドリーは、ミルディンの目を見据えながら言いました。

ブラッドリー「君が知らないのも無理はない、特殊工作部隊は私が独断で設立した秘密裏の部隊でね。
        各地の…あー、そう、つまりアルダスとの小競り合いだね。
        私達第1隊が出動する時、隊の被害を抑えるために、戦いの前にちょっとした工作をしてもらう部隊なんだ。
        何、難しい事じゃない、例えば…そうだね、相手の食料庫に火をつけて、撤退を狙ったりする程度だよ。
        食料が台無しになるのはもったいないが、お互いその方が被害が少ないだろう?」

ミルディンは、「なるほど」と思いました。
しかし、一つ疑問がありました。

ミルディン「なぜ、秘密裏なのでしょうか?戦術として正しいものでしょうし、隠す事でもないと―」

その時、ブラッドリーが鋭い眼光を飛ばしたため、ミルディンはギクッとしました。

ブラッドリー「ふふ、まあ…部隊の存在を極秘にしているのは、正直に言うと、アルヴィン6世公から目をくらますためなんだ。
        彼はね、どんな些細な汚い手段も気に入らないんだよ。
        常に真っ向勝負を挑もうとする、まったくバカ正直としか言いようがない男なんだ。
        そのくせ、騎士に怪我を負わせるのは心底大嫌いと言う、矛盾しているだろう?
        だからね、私はこの部隊を作ったんだ、私の隊の、誰も死なせないためにね」

ミルディンは、ブラッドリーがアルヴィン6世に多少反感を持っている事を悟りましたが
隊に被害を出したくないと言う気持ちは理解する事が出来ました。

ミルディン「すみません、口が過ぎたようです、それで…私をその部隊に入れて頂けると?」

ブラッドリーは、少し笑みを浮かべました。

ブラッドリー「うん、現状この部隊に加えられる実力を持つ新人は、ミルディン君位なんだ。
        最初からそこまで難しい仕事を与えるつもりはないから、安心してほしい。
        部隊に入ってくれるかい?」

ミルディンは、一瞬ためらいましたが、「隊のためになるなら」と思い、答えました。

ミルディン「分かりました、部隊に入れてください」

ブラッドリーは、表情を緩め言いました。

ブラッドリー「ありがとう、君のおかげで隊は救われるだろう、活躍を期待しているよ」


ミルディンはブラッドリーの部屋を後にし、その日はそれ以外に用事がなかったため、モーズレイ家へ帰りました。
自分は大役を任されたと言う嬉しさより、失敗は出来ないという責任感をひしひしと感じつつ、その日の夕食を摂っていました。
自然と表情は厳しいものとなってしまい、それを4歳年下の妹、ミリアから指摘されました。

ミリア「兄さん、どうかしたんですか?さっきから表情がこわばってますけど」

ミルディンはハッとなりました。

ミルディン「あ、いや、なんでもないよ、ちょっと考え事してただけ」
ミリア   「その考えてる事が知りたいんだけど…奇跡的に彼女が出来たけど最初のデートで幻滅されて別れたとかですか?」
ミルディン「僕をどれだけ残念に見てるんだよ…仕事の事を考えていただけ!」
ミリア   「仕事ですか、つまらないの、じゃあ良いですよ」

ミルディンは、これ以上ミリアを心配させないように、極力明るい事を考えて、普通に振舞うようにしました。
ミリアも、ミルディンが困らないように、それ以上深くは踏み込まないようにしました。


時はさかのぼり、ミルディンがブラッドリーと対話している時、第1隊の何名かの隊員が、食堂で、ある話をしていました。

男性隊員A「前の、なんだっけ?メレディス高原だっけ?での戦いって、あれなんだったんだろうな」
男性隊員B「あーだねえ、何か急にアルダスの部隊が退きはじめてさ」
女性隊員A「最近そういう事多いよね」
女性隊員B「あーあれ私知ってるよ、メレディス高原って川が流れてるじゃない。
        で、下流にアルダスの村があるんだけど、急に毒水が流れ込んだんだってさ。
        村人がバタバタ倒れてさ、それを沈静するために部隊が緊急で回されたんだって」
男性隊員B「うえーそれ本当?何で知ってるの?」
女性隊員B「わはは、私の情報網を甘く見ないでほしいね」
女性隊員A「えーでも、毒水って事は人為的なものでしょ?うちの隊はそういう事してないわけだし
        アルダスが自分の村に毒を流すわけないしさ、誰がやったんだろ?」
全員    「???」


それから2週間後、ミルディンが特殊工作部隊に入り、初めての実戦の日がやってきました。
ミルディンは特殊部隊隊員として、ブラッドリーに呼ばれました。
ブラッドリーの部屋に入ると、ブラッドリーの他に、2名の隊員が居ました。
ミルディンは、その2名と面識がある事に気づき、驚きました。

ミルディン 「あなたは、オズボーンさん!?それにメーベルさんじゃないですか!あなた達も特殊工作部隊だったのですか!?」

オズボーン、そしてメーベルと呼ばれた2人の騎士は、ミルディンと何度か食事を共にし
彼に、騎士のあり方や礼節などを教えた、尊敬する先輩だったのです。

オズボーン「ああ、ミルディン君か、別に驚く事じゃないだろ?君だって普段は第1隊の隊員を装っているじゃないか」
ミルディン 「いえ、僕は装っているつもりは…」

見知った先輩隊員が、特殊工作部隊隊員だったと言う事を知り
ミルディンが動揺しているところで、メーベルが口を開きました。

メーベル  「ちょっとー、二人とも黙りなさい、これから作戦が通達されるんだから」
オズボーン「はいはい」
ミルディン 「あ、すみません…」

ブラッドリーが、「さて」、と言う言葉と共に、椅子から立ち上がり、地図を広げました。

ブラッドリー「顔合わせも済んだようだね、ああ、他にも隊員は居るんだが、今回はこの3人で動いてもらうよ、いいね。
       では作戦を指示しよう、まずオズボーン君」
オズボーン「はっ」

オズボーンは姿勢を正しました。

ブラッドリー「君には、まずアルダス兵の変装をしてもらって、情報を流してもらおうか、『アルダス内のキャンプに大量の爆薬が仕掛けてあるらしい』と」
ミルディン 「爆薬!?」

ミルディンはぎょっとしました。

メーベル  「それは実際には仕掛けていない、つまり虚報と言う事ですか?」
ブラッドリー「いや、本当に仕掛けてあるよ、丁度キャンプの近くにアルダスの村がある事が分かってね、村人に協力してもらって
        食料を運ぶ馬の何頭かを、爆薬入りの麦樽を積んだ馬とすりかえさせた、ついでに水もね。
        水には遅効性の麻痺毒を混入させているはずだ、第1隊本隊が着く頃に効くようにね」
オズボーン 「なるほど、まず情報で混乱させ、食料を絶ち、さらに戦闘時に敵の戦力を無力化させる、と、考えましたな、敵が哀れだ」
メーベル  「私は何をすればよろしいでしょう?」
ブラッドリー「君には、食料庫に番兵が何名か居るはずだから、その兵達を殺害してもらおうか、方法は任すが…ああ、そうだね
        番兵を殺害した後、付近一帯の兵士を誘導し、おとりになって逃げてくれるかな。
        出来れば君が死なない程度にね、で、ミルディン君」

ミルディンは、言葉が飲み込めずにいましたが、ハッとなり答えました。

ミルディン 「え、あ、はい」
ブラッドリー「君には、メーベル君がおとりになって逃げて、食料庫付近が一時的に手薄なった隙を狙って
        食料庫を爆破してもらいたい、出来るね?」

ミルディン「あ、でも、私は…メーベルさんが危険かと…」

ブラッドリーは、少しため息をついた後、ミルディンを睨みつけて言いました。

ブラッドリー「もう一度言おうか、出来るね?」
メーベル  「ミルディン君、私が死んでもミルディン君が今後困る事は何もないでしょう?やりなさい」

オズボーンが、笑いながら言いました。

オズボーン「君はあまちゃんだなあ、仲間が一人死ぬかもしれない、位で動揺するなよ。
       死ぬかもしれない、て事は、死なないかもしれないって事だぜ?
       ええと、で、隊長、村の方はどうするんです?」
ブラッドリー「もちろん、全員に死んでもらうよ、フィオナ王国に金で依頼されて爆薬を仕掛けた、なんて
        アルダス側に密告でもされてごらん、世間に広まったら困るだろう?」
オズボーン 「ごもっともで、で、変装している俺がやるわけですか?」
ブラッドリー「話が早いね、ええと、名目は「食料庫をアルダス反対党の村人に爆破されたから」としようか。
        万一逃げ延びた村人が居ても、アルダス兵が村人を虐殺をしていると言う事態が広まったら
        アルダス側も困るだろうからね…ああ、むしろ、一人二人わざと逃がした方が良いね、名目は声高に叫ぶようにね」
オズボーン 「了解しました、おいミルディン、君も良いな?おい!」

ミルディンは、怒りでわなわなと震えていました。

ミルディン 「も、もう良いです!私は、私はもうこの部隊から抜けさせてもらいます!」
メーベル  「ちょ、ちょっと!作戦はどうするのよ!」

ブラッドリーは、落胆しながら言いました。

ブラッドリー「ふう…いや、良いよ、他の者にやらせよう…ミルディン君、この部隊は、秘密裏のものだと言ったね?
        この部隊を抜けたら、第1隊、いや、騎士団から君を除名する事になるが、いいかい?」
ミルディン 「勝手にしろ!」

ミルディンは、隊長室の扉をバンと大きな音を立てて開け、出て行きました。
その音に、他の隊員達がぎょっとして、集まり出しました。

男性隊員「おい、ちょっ…どうしたミルディン!?どこ行くんだ!?」
女性隊員「今、アルダス兵達がチャーミアン地方に集まってるって…ミルディン!?」

ミルディンは、隊員達に振り返り、吐き出すように言いました。

ミルディン「この隊はくそったれだ!」


―2年後、クレメンス食堂。

スチュアート「ねー、何ぼやーっとしてるのアンタ、コーヒー飲む?」
ミルディン  「え、ああ、スチュアートか、もらうよ…ちょっと昔の事を思い出してね。
         スチュアート、騎士って何のために居るんだろうね」

スチュアートは、きょとんとして言いました。

スチュアート「え、はぁ?何って、人を守るためなんじゃないの?ミルディンもそうだったんでしょ?」
ミルディン 「ああ、そのはずだったんだけどなぁ…僕はあの二人みたいにはなれなかったよ」
スチュアート「ん、誰?」

ミルディンは、アイスコーヒーの底の氷を、ストローで回しながら言いました。

ミルディン 「いや、もう昔の事だしな」
スチュアート「あそう…そうそう、ところで、さっきミリアって若い娘が冒険者登録してたんだけど、なんとなーくミルディンに似てたなあ」
ミルディン 「あそう……ミリア!?」

スチュアートはびくっとしました。

スチュアート「な、なんだよ、びっくりしちゃった!」
ミルディン 「その娘、今どこに居る!?」
スチュアート「多分説明担当の人に話聞いてるんじゃないの?今の時間だとチェスターさんじゃない?」
ミルディン 「分かった!ありがとう!」

ミルディンが走り去った後、スチュアートはコーヒーを飲みながら思いました。

スチュアート「昔の彼女かな?結構未練がましいところがあるなあ」

ミルディンは、大急ぎでチェスターの居る説明室へ向かいました。
そして、扉を乱暴に開けて、室内を確認し、女性の姿を見つけ、大声を出しました。

ミルディン「ミリア!」

その声に驚いたのが、モーズレイ家に居るはずのミリアと、説明担当のチェスターでした。

ミリア   「兄さん!」
チェスター「うわ何ですか…え、兄さん?」

ミルディンは、ミリアの手を取り、部屋から連れ出しました。

ミルディン「チェスターさん、ちょ、ちょっとすみません!大事な話があるので!」
チェスター「あ、は?え、ちょっ…何が起きちゃったの?」

ミルディンはミリアを連れ、近くにあった図書室へと入り、部屋の隅の方に座りました。

ミルディン「ミリア、本当にごめんね、2年間もずっと連絡しなくて…どうしてここに?」

ミリアは、うつむき加減で言いました。

ミリア「兄さんが心配で…2年前、いきなり「騎士団を辞めた」って言って、家から出て行った時にはびっくりしたし、悲しかったです。
    でも、兄さんの事だから、剣を捨てるのは有り得ないと思ったの。
    だから、もしかしてクレメンスに入ったのかなって…。
    父さんに、「あいつの事は探すな」って釘を刺されてたから、家から独立するまでここに来れなかったんです。
    会えて良かった…」

ミリアは、少し泣き声になっていました。

ミルディン「そっか…今、どうしているんだい?」
ミリア  「うん、私ね、あれから剣術を始めたの、兄さんを探すために。
      でも父さんが「剣術は男のものだ」って怒っちゃって、私も家に居づらくなってきちゃって。
      大学卒業までは家に居たんだけどね」

ミルディンは、ミリアの将来を自分のせいで台無しにしてしまったのかと、悔やみました。

ミリア「でもね、私どんどん剣術が好きになってきて、通ってる剣術道場では一番になったんです!
    それで、私の師匠が、もう剣士として立派に稼げるって言ってくれて。
    それなら、兄さんが居るかもしれないクレメンスで働こうって思って、今日ここに来たの。
    まさか、初日で兄さんに会えるとは思ってなかったから、ちょっとびっくりしてます」

ミルディンは、嬉しさと恥ずかしさで赤面しました。

ミルディン「いや嬉しいな…そうだ、ミリア、僕と一緒に…」

その時、女性の大声が聞こえました。

???「あーっ!ちょっとミルディン!何よその娘!」

ミルディンとミリアは、びくっとして声のした方を見ました。
そこには、クレメンス所属のトレジャーハンター、ラーラ=ミークの姿がありました。

ラーラ「あらららららら、図書室デートですかぁ?良いわね!アンタ誰よ!」

ミルディンとミリアは、閉口していましたが、やっと声が出ました。

ミリア  「あ、あー、あの、兄がお世話になっています…ミリアと言います…兄さん、この人は恋人ですか?」
ミルディン「えっ?いや、同僚?」

ラーラは、ムカッとして言いました。

ラーラ「同僚って、アンタ同僚って…この前ご飯作ってあげた位なのに…え、何?兄妹?」
ミリア「あ、はい、妹のミリアです」
ラーラ「ここに居るって事は、アンタも冒険者なわけ?」
ミリア「え、と、今日が初日で、今日やっと兄さんと会えて…」

ラーラは、何を思いついたのか、こう言い出しました。

ラーラ「分かったわ、ちょっとこっち来なさい、冒険者のイロハを教えてあげる」
ミリア「え?あ、はい…」

ラーラとミリアは図書室のさらに奥の方に行き、ヒソヒソと喋りだしました。
ミルディンは、一人置いてきぼりにされ、どうして良いか分からず
テーブルの縞模様の段数を何となく数えている内に、ラーラとミリアが戻ってきました。

ラーラ「ミルディン、この娘、今日からアタシの家に住むから!」

ミルディンは、あっけに取られてしまいました。

ミルディン「は、はぁ!?え?僕の家に…」
ラーラ  「アタシの家よ!この娘、聞けばほとんど家出状態みたいじゃない、だからアタシが世話してあげるの!
      男のアンタよりアタシの方が何かと良いでしょ?アンタの事も聞き出せるしね!別に良いでしょ?アタシの家知ってるんだし」
ミリア  「すみません兄さん、断り切れなくて…それにしても積極的な女性ですね…ラーラさん」
ラーラ  「初恋は実らせなきゃね!」
ミリア  「え!?初恋なんですか?兄さんが?」

ラーラは、「しまった!」と思いました。

ラーラ  「え、あ、いや…皆アタシに恐れをなしたって言うか…良いでしょ!もう!」
ミリア  「初恋なんですかぁ…へえ…兄さんが…初恋…」
ラーラ  「んんもう良いでしょ!行くわよ!アンタの服とか色々買わなきゃね!」
ミリア  「は、はーい」

ラーラとミリアは、さっさと行ってしまいました。
二人が出て行った後、スチュアートとチェスターが図書室に入ってきました。

スチュアート「何かスゲエな、外まで声聞こえてたよ、妹だって?」
ミルディン 「うん、まあ…良く分からない事態になったけど」
スチュアート「まあでも、会えて良かったじゃん、今度はあの娘の事を守ってあげたら?騎士団で出来なかったならさ」
ミルディン 「そうだね…僕が守れるのは、この手に届く範囲の人位なんだな。
        この国の人達を守るのは、アルヴィン7世様と、ブライアン先輩に任せるよ」
スチュアート「あ、その2人って…」
チェスター 「現国王と、騎士団第2隊の隊長さんですよ、と言うか、私はまだミリアさんに説明途中だったんですけど…」



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