フィオナ王国では、国内の子供達は、貧富や身分の差異などは全く心配する事なく
すべからく平等な教育を受けられるよう、故アルヴィン5世が政治改革を起こし
貧しい家庭に生まれた子供は、学校教育を受ける事を許されず
生涯読み書きすら出来なかった、それまでのフィオナ王国の歴史は、塗り替えられる事になります。

フィオナ王国の子供達は、まず、フィオナ王国城下町のほぼ中央部に位置する
国内唯一、そして超マンモス級の規模の、「フィオナ王立ウーラノス小学校」に入学する事になります。
フィオナ城下町近辺に住んでいない、郊外で生まれ、通学する事が難しい子供達も
「テーテュース学業寮」に入寮させ、充実した小学校生活を送る事が出来るようになっています。

ウーラノス小学校を卒業したら、同じく義務教育である中学校に入学する事になりますが
中学校、高校、大学の場合は、フィオナ王国各地に点在していますので、各々身近な学校に通うことになります。
小学校から大学までを通して、授業料は、納入出来る家庭は、通常料金で納入しますが、そうではない経済事情が厳しい家庭の場合
「フィオナ教育基金」と言う、授業料となる料金を、無金利無担保で貸付してくれる機関があり、それを利用します。
返せる時に返し、生涯の内に全額返済すれば良いと言う、ボランティアに近い機関になっていますが
それだけ国内事情が潤沢していると言えるでしょう。

シルヴィアとラルは、フィオナ城下町の、「フィオナ王立クリュメネー中学校」に通っています。
今日は日曜日で学校が休みとあり、シルヴィアは昼の11時まで寝ていたのですが
いい加減起こさないと、と、シルヴィアの母シンディは、2階にあるシルヴィアの部屋の前に来て、ドアをノックしました。
その手には、ある封筒が握られてしました。

シンディ「シル!入るわよ!」

シルヴィアは、あまり寝相の良い方ではなく、ベッドの中で前後不覚の状態で寝ていたのですが
さすがに母親であるシンディは、慣れたもので、シルヴィアの頭があると思われる位置をすぐに見つけ出し
布団をめくり、シルヴィアに声をかけました。

シンディ  「シル!もう起きなさい!」
シルヴィア「…」

声をかけても返答がないため、シンディは、手に持っていた封筒でシルヴィアの頬を軽く叩きました。

シンディ  「ほらもう、なんかアナタ宛に手紙が着てるのよ、起きて読んで頂戴!」
シルヴィア「ん、手紙…?」

手紙が着ていると聞いて、シルヴィアはむっくりと起きました。

シンディ  「じゃあほら、私はお昼ごはん作ってくるから、起きて顔洗うのよ」
シルヴィア「うん」

「うん」と言いつつも、頭の中は、手紙を読んだらまた寝る態勢でいたのですが
手紙の差出人、そして中の手紙を見て、シルヴィアはすぐに覚醒しました。
そしてシルヴィアは、大声を上げずにはいられませんでした。

シルヴィア「うわっ!うわあああああ!」

その声に反応したのは、隣のアルカード家の、シルヴィアの部屋とほぼ併設されている部屋に居る、ラルでした。
ラルは、部屋の窓を開けて、シルヴィアに声をかけました。

ラル    「ちょ、ちょっと何?うわああって、びっくりした!」
シルヴィア「だ、だってラル!これ、あれがこうなってるの!超すごい!」
ラル    「全然分かんないよ!」
シルヴィア「じゃ、もうこっち来て!手紙見て手紙!」

シルヴィアは、「窓をまたいで来い」と言わんばかりでしたが、もちろん、万一2階から落下したら、ラルは大惨事ですので
ラルは、行儀良く、玄関からシルヴィアの家に入り、台所に居たシンディに挨拶し、シルヴィアの部屋に入ってきました。

ラル    「で、何がどう…って、今まで寝てたの?パジャマだし」
シルヴィア「良いじゃない、日曜なんだから!それよりこれ!ほら!ほら!これ!」

シルヴィアは、送られて来た手紙を、ラルの前に突きつけ、ひらひらさせました。
ラルは、内心「なんだろうこのテンション」と不可思議でしたが、手紙を読んで理解出来ました。

拝啓、シルヴィア=オールディス 様。
このたび、マルグリット=ミールの画集を購入された事、まことにありがとうございます。
巻末にありました、「読者感謝キャンペーン:マルグリットの仕事部屋見学」にお申し込みされた件につきまして
多数の応募の中から、シルヴィア=オールディス 様をご招待させて頂く事となりました事を、ここにご報告致します。
見学者は、シルヴィア=オールディス 様を含め、2名までとさせて頂きますので、あらかじめご了承頂ければと存じます。
見学日程ですが、10月14日(日)14時〜17時とさせて頂きたいのですが、もし不都合がありましたら、折り返しご連絡頂けるようお願い致します。
また、当日、この手紙で見学資格の確認をさせて頂きますので、見学時、持参してくださるようお願い申し上げます。
見学地ですが、マルグリットの自宅となりますので、下記に地図を明記致しましたので、ご確認の程よろしくお願い致します。
それでは、10月14日にお待ちしております。 フィオナ美術連盟事務局長:グラハム=マードック

ラル    「うわっ!うわああああ!」
シルヴィア「うわああああ!」

二人は、揃って大声を上げてしまいましたが、それも無理はありません。
フィオナ王国芸術人間国宝、マルグリット=ミールは、二人のみならず、メリエル大陸中の人が知り、尊敬する程の、超一流の女流画家です。
ザンティピーの悪魔の中にすら、彼女を神格的に見ている者が居るのでは?とさえ言われています。
その、憧れを通り越して、崇拝に近い感情を抱く画家の仕事部屋が見れるとなれば、これは一大事です。

ラル    「ににに2名までって、私も良い?良いでしょ?」
シルヴィア「ももももちろん、二人で行こうね!」

この手紙をもらったのが10月7日、14日まで1週間の猶予があります。
二人には、1週間が、10年にも感じられる程、長く感じました。
そして、マルグリット=ミールの部屋の見学を許される、14日当日を迎えました。

シルヴィア「ママ、この格好変じゃない?失礼じゃない?」
シンディ  「大丈夫よ、ラルちゃんの家に寄ってからでしょう?行ってらっしゃい」
シルヴィア「うん!」

シルヴィアは、ネコさんプリントTシャツに茶系のジャケット、グレーのパンツにしました。
そして、オールディス家のすぐ隣の、アルカード家の呼び鈴を押しました。

メル    「はい、アルカードです」
シルヴィア「あの、シルヴィアです、ラルは用意出来てます?迎えに来ました」
メル    「あ、シルちゃんね、ありがとう。今ラルも用意出来たみたいだから、ちょっと待っててね」
シルヴィア「はい」

15秒程経ち、出てきたラルを見て、シルヴィアは絶句しました。
ラルも、ネコさんプリントTシャツに茶系のジャケット、グレーのパンツだったのです。

シルヴィア「な、なんでかぶるの!よりによって今日に!」
ラル    「し、知らないよ!適当に選んだらこうなったんだもん!」
シルヴィア「んもー!着替えてる時間もないし、いいやもうこれで!」
ラル    「恋人だと思われない?」
シルヴィア「同じ女でしょ!」

マルグリット=ミールの家は、フィオナ王国城下町より程近い、エーリアル地方クレメンタイン街にあります。
エーリアル地方は、古くから芸術家、学者を多く輩出し続けている地方であり、暑い季節には花火大会もある
フィオナ王国内でも、もっとも発展している街のひとつです。
クレメンタイン街の中央からやや東側の、マルグリット=ミールと並び高名な
同じく美術家の、ブランドン=マクレランやベッキー=オールストンなども住む、通称「アーティスト街」に、マルグリット=ミールの家はあります。
クレメンタイン街の入り口から、アーティスト街に行く途中、シルヴィアとラルは、「彼」の姿を見つけました。

シルヴィア「あっ!」
ラル    「あーっ!」
??    「おや?」

色白で細身の体に、知的な顔立ち、優美なたたずまい、一目で「ただものではない」オーラを感じ取れ
何より、1年前にシルヴィアとラルを救ってくれた、あのブライアン=コールフィールドが
二人と同じ方向に歩いていたのです。

ラル    「ブライアンさんだ!」
シルヴィア「ブライアンさん、お久しぶりです!」
ブライアン「これはこれは、シルヴィアさんとラルさんですか、奇遇ですね、その後体調はいかがですか?」

シルヴィアは、首にかけていた、ブライアンからもらったペンダントを見せながら言いました。

シルヴィア「はい、このペンダントのおかげで、ラルと一緒に居ても、大丈夫です!」
ラル    「本当にありがとうございます!」
ブライアン「ふふ、それは良かった、時に、お二人はどうしてここへ?」
シルヴィア「あ、私達、マルグリットさんの画集の読者応募で当たって、仕事場を見せてくれる事になってるんです」

ブライアンは、「なるほど」と思いました。

ブライアン「それは運が良かったですね、私もこれからマルグリットのところへ行く途中なので、よろしければご一緒しましょう」
ラル    「あれ、ブライアンさんって、マルグリットさんと知り合いなの?」
ブライアン「ええ、そうなりますね、マルグリットの家は、ここから200m程のところにあります、行きましょう…ところで」
シルヴィア「はい?」
ブライアン「お二人は恋人でしたか?」

シルヴィアは、服装がラルとかぶっていた事を思い出し、恥ずかしくなってしまいました。

シルヴィア「い、いや、たまたまかぶっちゃっただけで…ラルの事は好きだけど、そういうんじゃなくて…」
ブライアン「ふふ、冗談ですよ」
ラル    「私は恋人でも良いけど」
シルヴィア「ちょっと、ラル!」
ブライアン「おや、まあ愛に性差はさして重要ではないですよ、微笑ましい事です」
シルヴィア「そういうんじゃなくてえ!」

ブライアンの人を食ったような言い回しは相変わらずでしたが、話していて安心感と言うものはありました。
そしてシルヴィアとラルは、ブライアンにエスコートされ、マルグリット=ミールの家の前に着きました。
その家は、いわゆる「豪邸」とは違い、全くの「普通の家」で、下流でも上流でもなく、狭くもなければ広くもなく
その等身大さに、二人は驚きを隠せませんでした。

ブライアン「意外ですか?普通の家でしょう?」

二人は、ハッとして言いました。

ラル    「あ、いや、えーと、もっと大きいかと思ってた」
シルヴィア「私も、もっとピカピカした感じだと思ってました」
ブライアン「マルグリットはね、お金に執着がないんですよ、資金が入ると、生活費と画材費、多少の余暇の分を残し
       後はフィオナ教育基金や芸術連盟の運営資金、戦争孤児基金などに寄付してしまう、そういう人です。
       彼女の画集が高すぎると言う者は多々居ますが、本人はその売り上げのほとんどを手にしていないのですよ」

その思想に、シルヴィアとラルは関心してしまいました。

シルヴィア「でも、何でそんな事を?もっと欲があっても良さそうなのに」
ブライアン「それは、直接本人に聞いてみましょう、せっかくこうして会えるのですから」

ブライアンは、マルグリット宅の呼び鈴を押そうとしました。

シルヴィア「あ、あ、ちょっと待って!手紙に、見学資格の確認をするって書いてあったんですけど、誰かに見せないと」
ブライアン「ああ、問題ないですよ、確認者は私ですから」
ラル    「ええー?」

シルヴィアとラルが面食らっている間に、ブライアンは呼び鈴を押しました。

??   「はい、ミールです」
ブライアン「ブライアンです、見学者2名をお連れしました」
??   「あ、ブライアンね、分かった、すぐ行くわ」

しばらくして、玄関のドアが「きゅう」と言う音を立てて開きました。
シルヴィアとラルは、いよいよ憧れの人に会えると思い、心臓が爆発するかと思うほど緊張しました。
中から出てきたのは、10代後半から20歳位の、ロングヘアーの若い女の子でした。
マルグリット=ミールの年齢は、40代後半と聞いていたので
二人は、「娘さんかな?」と思い、少しだけ肩透かしを食らったような気がしました。ところが。

女の子   「初めまして、マルグリット=ミールです、よろしくね」
シルヴィア「えっ!?」
ラル    「えっ、ええーっ!?娘さんじゃないの!?」

驚愕する二人をよそに、ブライアンは、クスクスと声を殺して笑っています。

マルグリット「んもー!ブライアン!笑わないでよ!」
ブライアン 「これは失礼、マルグリットに初めて会う方は、皆同じ反応をしますね、実に楽しい」
マルグリット「そう、アナタ以外はね!んもー、とりあえず、中に入って入って」

驚愕さめやらぬ中、シルヴィアとラルは盲目的に従いました。
リビングの椅子に座ると、マルグリットが3人にクッキーと紅茶を振舞ってくれました。

マルグリット「さ、どうぞ、お砂糖は好みで加えてね」
シルヴィア 「あ、すみません、ありがとうございます」
ラル     「あ、おいしー」
ブライアン 「ほう、ダリジンの紅茶ですか」
マルグリット「そう、良く分かるわね、昨日までスラリンのだったんだけどね、ダリジンのをもらったから淹れてみたの」

シルヴィアとラルは、紅茶を飲みながら、マルグリットの事を 「何でこんなに若いんだろう?」と何となく見つめてしまいました。

マルグリット「やぁね、何そんなに見つめてるの?」
シルヴィア 「ご、ごめんなさい、あんまり若くて綺麗だから」
ラル     「え、と…失礼だと思うんですけど、40代後半なんですよね」

マルグリットは、ニコニコしながら言いました。

マルグリット「そうよ、今年で47かしら?人間恋をしてると歳取らないって言うじゃない?ねえ、ブライアン?」
ブライアン 「その理論は分かりますが、対象が私と言うのが理解出来ませんね」
マルグリット「ふふ、孤独な私に、潤いを与えてくれたのがアナタじゃないの」

シルヴィアとラルは、「大人の会話」にちょっと興味を引かれはじめました。

シルヴィア 「えーと、孤独って…?」
マルグリット「うん、少し長くなるんだけどね」

マルグリットは、両手で紅茶のカップを持ちながら話し始めました。

マルグリット「そうね、あれは5年前かしら?私が芸術人間国宝と認められたのが確かそれ位ね。
        私ね、正直に言うと、それまで絵を描いてきたのって、世間に復讐するためだったのよ。

        私はあまり高校の成績も良くなかったし、大学に行ってもしょうがないなって思ってたの。
        でも、絵は好きだったから、絵の学校に入ったんだけど、そこでもあんまり、ね。
        沢山、本当に沢山、絵の会社を受けたんだけど、全部落ちちゃったの。
        それからは、自己流でずーっと絵を勉強してきて、いつか、私を落とした会社から、私に「描いて欲しい」って言ってきたら
        「私を落とした会社だから描かない」って言ってやろうって、その気持ちだけで勉強してたのよ。
        自分でも、意地悪だなって思ってたけど、それが率直で、素直な気持ちだったの。

        でも、ちょっとずつ私の絵が世間に認められて、私の事をほめてくれる人も出てきたころかな
        もっと絵が上手くなって、もっとほめられたいって言うのと、復讐したいって言うのと、ごちゃごちゃになっちゃったの
        でもね、現実には、最初に考えてたみたいに復讐するのって、無理だって分かったの、生活もあるしね。
        何より、私を必要としてくれたのに、それを断るって、人間としてどうかなって思い始めて。
        それで、世間にマルグリットって名前を広める事で、復讐するって事にしたの。

        それからかな、入ってくるお金を、教育基金とか、美術連盟とか、戦争孤児の基金に回したりし始めたのね。
        私の事を、汚れのない善人って言う人も居るけど、そんな事は全然ないのよ。
        むしろ、そういう事で売名しようって考えちゃったんだからね、言ってみれば偽善者なの。
        売名の甲斐あって、って言うと寂しいけど、5年位前に芸術人間国宝って呼ばれるようになって
        ああ、これで復讐も終わったなって思ったんだけどね。
        良く見渡すと、私の周りには誰も居ない事に気付いたの。

        考えてみれば当然よね、結果的には人を救ってた事になるけど、動機は復讐なんだから
        心の底から、人を信じるって事が出来なかったと思うの。
        それに、「弟子にして欲しい」って言う人は、ほんとにいっぱい来るんだけど
        私自身を求めてるんじゃなくて、私の技術が欲しいんだなって思うようになっちゃって
        私って孤独だなって思うようになったのね。
        そんな時に、ブライアンが私のところにやって来て、こう言ったのよ」

ラル     「なんて言ったの?」

マルグリットは、にこっとして言いました。

マルグリット「『あなたは実に孤独だ、あなたは本当に幸せだと感じた事がないのでしょう。
        あなたは人に与え続けてきたのだから、今度は私があなたにを与えましょう』って
        15歳かそこらの子供がそう言ったのよ?42歳の人間国宝に向かって」
シルヴィア 「うひぁ」
ラル     「なんかすごいなぁ」
マルグリット「でもね、私の心の底を見てくれている人が居るって分かって、すごく嬉しかったの」

シルヴィアとラルは、改めてブライアンの凄さを知った気がしました。

ブライアン 「15歳の子供にも分かるほど、痛々しかったと言う事ですよ」
マルグリット「ふふ、それからは、学校が終わったら毎日、私のところに来てくれるようになったのよ、そう、今もね。
        でも、ブライアンは、「絵を教えてほしい」って言った事は、1度もないのよね」

ブライアンは、くくと笑って言いました。

ブライアン 「正直に言いましてね、今のあなたから学ぶものは、何もありません。
        あなたは与え続けてきたのだから、内なる力を出し尽くし、心を失っているのです。
        その全てが満たされた時、私はあなたに「絵を教えてほしい」と言いますよ。
        技術そのものは、私もあなたも差異はないと確信していますからね、問題は心の力ですよ」

マルグリットは、怒るどころか満足げな笑みを浮かべました。

マルグリット「ふふ、言うじゃない、だからアナタが良いのよ」
ブライアン 「ふふ、まあ、おいおい考えていきましょう、そう、それはそうと、マルグリット」
マルグリット「あら、なあに?」
ブライアン 「2人に、そう、シルヴィアさんとラルさんに仕事場を見学して頂くという約束では?」

その場に居た3人は、「あっ」と気付きました。

マルグリット「そうそう、それなんだけど、今日はちょっと見せられないかな〜」
シルヴィア 「ええ、ダメなんですか?」
ブライアン 「おや、それはまた、なぜ?」

マルグリットは、申し訳なさそうに言いました。

マルグリット「そのね、1週間前オイルを沢山買い溜めしたでしょ?それを、さっき、そのね」
ブライアン 「なにか油臭いと思ってましたが、やってしまいましたか」
マルグリット「うん、2缶ひっくり返して、仕事場ぐちゃぐちゃになっちゃったの」
ブライアン 「分かりました、後で手伝いますよ」
マルグリット「うん、ありがと、それでね、このまま帰しちゃうのも悪いから、もし良かったら、二人の似顔絵を描いてあげたいんだけど」

シルヴィアとラルは、思わぬ提案にびっくりしました。

ラル    「ええ!?」
シルヴィア「そんな!気を使わないでください!」

マルグリットは、にっこり笑って言いました。

マルグリット「良いのよ、たまにこういうのも、気晴らしになるものよ」
ブライアン 「意外と、本業より熱が入ったりするものですよ、そう、私もお二人を描いてもよろしいでしょうか」
マルグリット「あら、良いわね、どっちが上手く描けるか競作ね」

シルヴィアとラルは、嬉しさと「良いのかな?」と言う気持ちでいっぱいになりました。
芸術人間国宝と、その最愛の芸術家に似顔絵を描いてもらうのですから、これほど贅沢な事はありません。
仕事場のスケッチブックと鉛筆は、オイルに侵される事なく無事だったので、それをブライアンが取ってきました。
そして15分後、二人の似顔絵、計4枚が出来上がりました。

ラル     「うわ、うま…」
シルヴィア 「すごーい、たった15分で…本当にありがとうございます!」
マルグリット「ふふ、やっぱり仕事より楽しかったわね」
ブライアン 「そういうものですよ、そろそろ日が落ちて来ましたが、お二人は時間は大丈夫ですか?」

シルヴィアは、そういえば明日は学校だったと思い出しました。

シルヴィア「あ、本当、そろそろ帰らないと」
ラル    「うん、お話してたいけど、明日学校だしね」

マルグリットは、少し残念そうに言いました。

マルグリット「そう、仕事場見せられなくてごめんなさいね、また二人とお話したいから
        クレメンタイン街に来る事があったら寄ってね、約束」
シルヴィア 「はい、ありがとうございます!」
ラル     「また是非!あ、あの、ブライアンさん」
ブライアン 「なんでしょう?」
ラル     「マルグリットさんと結婚する時は、呼んでね」

それを聞いて、マルグリットは顔を真っ赤にしてしまいました。

シルヴィア 「ちょっとラル!何言うのよ!」
ラル     「えーだって」
ブライアン 「そうですね、人生は長いですし、パートナーは必要でしょうね」
ラル     「ねー」
シルヴィア 「も、もーやめなさい!それじゃ、マルグリットさん、ブライアンさん、今日はありがとうございました!」
マルグリット「う、うん、またね!」
ブライアン 「それでは、またお会いしましょう」

シルヴィアは、ラルを連れてそそくさと玄関から出て行きました。

シルヴィア「もーラル、どうにかなっちゃったらどうするの!」
ラル    「えー、どうにかなっちゃった方が、二人には良いんじゃないの?」
シルヴィア「それはまあ、どうにかなっちゃって欲しいけど、47歳と20歳ってアリなの?」
ラル    「外見20歳同士だから良いんじゃないの?私のとこも176歳と40歳だよ」

それを聞いて、「それもアリなのか」と、シルヴィアは思いました。

ラル    「ところでさぁ」
シルヴィア「ん?」
ラル    「この似顔絵って、サインがないんだけど、どっちが描いたのか全然見分けつかないよね」
シルヴィア「私も思ったけど、技術に差異はないって言うか、もう全く同じだよね」
ラル    「やっぱり、どうにかなっちゃうの確定してるね」



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