フィオナ王国を盛り上げていた「フィオナ祭」も、残り10日となりました。
人々は、お祭りの終盤のたそがれを感じつつも、まだ心は沸き立っていました。
しかし、その中で、頭を抱えていた女性が一人居ました。
その女性は「シェリル=レーマン」、フィオナ王室の広報官をしている、若いながらも有能な人物です。

彼女は普段、王室の活動を紹介したり、騎士団やクレメンスの重要人物へのインタビューを積極的に行い、内容を広報誌や雑誌で連載するなど
固い内容ながらも、精力的に活動をしており、アルヴィン6世からの信頼も厚い人物でした。
そのため、今回のフィオナ祭に際し、何か盛り上がるイベントを企画するよう、アルヴィン6世から直々に依頼されていたのです。

当のアルヴィン6世は、お祭りにも関わらず、政務室に篭りきりと言う状態だったため
シェリルは、フィオナ国民はもとより、アルヴィン6世にも何か楽しんでもらえるイベントを作ろうと思い
1ヶ月前から考えに考えを巡らせていたものの、普段固い内容の企画しか考えた事のない彼女には
今になっても、良いアイディアが全く浮かばなかったのです。

その日の夜も、彼女は王室内の自身の部屋で、頭を抱えてうんうんとうなっていたのですが、そこに、一人の女性が訪ねてきました。
ドアの外から、2回コンコンとノックする音が聞こえたため、シェリルは「はい」と返事をしつつ
グシャグシャだった長い髪を急いで手グシで整え、ドアを開けました。
そこには、アルヴィン6世の妻、フィリーネ=ニーグルが、申し訳なさそうな顔で立っていました。

フィリーネは、美しく、それでいて気丈な女性としてフィオナ国内では知られていますが
それは、強い意志を持って生きるようにと言う、国民へのメッセージを込めた精一杯の態度であり
フィリーネは、本当は気性の弱い方だったため、王室内では、彼女を気遣う人が沢山おり、シェリルもその一人でした。
シェリルは、夜遅くに訪ねてきたフィリーネに対して、一体どうしたのかと思い、先に言葉を発しました。

シェリル「フィリーネ様!どうなされましたか?こんな夜遅い時分に」

フィリーネは、ゆっくりとした口調で喋りました。

フィリーネ「ごめんなさいね、こんな時間に」
シェリル 「あ、いえ、それは良いのですが…」

フィリーネは、一瞬うつむいた後、シェリルを見て言いました。

フィリーネ「夫が言った事で悩んでいるのでしょう?この頃、シェリルさんが疲れている様子で、とても気になったの。
       その、あまり気にしなくていいのよ?特別な企画を立てなくても、皆お祭りを楽しんでいるし…。
       夫の気まぐれでシェリルさんが体を壊したらと思うと、申し訳なくて…」

シェリルは、フィリーネに気を使わせてしまったのかと思い、申し訳ない気持ちになりました。

シェリル 「い、いえ!そんなとんでもない、アルヴィン様は私を信頼して申し付けたのですから、むしろ感謝しているぐらいです。
       それに、普段固い企画しか立てられない私には、これは良い機会ですし、本当に、気になさらないでください」

フィリーネは、目を伏せて言いました。

フィリーネ「そう…それなら良いのだけれど、絶対に、無理はしないでね。
       体を壊しては元も子もないから、それだけは約束してね?」

シェリルは、お辞儀をして言いました。

シェリル「はい、ありがとうございます!」

フィリーネは、ここでふと、ある事に気付きました。

フィリーネ「あら?そういえばシェリルさん、あなた普段メガネをしていなかったかしら?」

シェリルは、メガネを外した状態でドアを開けていたため
視界がぼやけている事に、今気付きました。

シェリル「あ、ええ、外したままドアを開けてしまいまして」

フィリーネは、ニッコリと笑顔を浮かべて言いました。

フィリーネ「そう、ふふ、あなたメガネをしない方が良いわね、凄く美人よ?コンタクトにしてみたらどうかしら」
シェリル 「え、ええ、そんな事は…」

シェリルは、顔を赤らめてフィリーネから視線を外し、うつむいてしまいました。
フィリーネは、それを見て、いたずらっぽい笑顔をした後、シェリルに体を気遣うように言い、その場を後にしました。

フィリーネが視界から消えるまで見送った後、シェリルは、再び自室の机の前に戻りました。
そして、無意識に机に置いてあった手鏡で自分を見て、フィリーネの言葉を思い出し、また恥ずかしくなってしまい
手鏡をベッドに向けて放り投げ、机に突っ伏してしまいました。
しかし、手鏡が空中を疾走し、今まさにベッドに着地しようとしたその時、シェリルは天啓が閃きました。

シェリル「美人…の、企画?…美人、コンテスト!」

シェリルは、ガバッと机から身を起こし、その辺りにあった用紙にペンを走らせました。
「ミス・フィオナ」、それだけを書き、企画が生まれた事で安心したせいか
急に眠気が差してきたシェリルは、そのまま机にもたれて寝てしまいました。


頭を抱えている女性は、ここにも居ました。
青い髪で、頭頂部には、どうやっても直らないクセ毛がピョコッと生え
ザンティピー人の血を引く、シッポを持ったラルと言う女の子から姉と慕われている、中学3年生の女の子。
そう、シルヴィア=オールディスです。

フィオナ祭が始まる前こそ、3万円のお小遣いがあったものの
お祭りの雰囲気にすっかり飲まれてしまい、飲食代や、良く分からない記念品などを買いすぎた結果、残金が3250円まで減ってしまったのです。
ラルの方は、意外と金銭面ではしっかり管理していたらしく、致命的な出費は避けていたのですが
シルヴィアはそれが出来ず、気が付けば残り少ないお小遣いと、全く使う用途のない、良く分からない記念品の山と言う惨状に
シルヴィアは、自分の部屋の中で、ジタバタとのた打ち回っていました。

お小遣いの日は、まだ遠かったため、お金を得る唯一の打開策は、またクレメンスでアルバイトをするしかないのですが
皆が楽しんでいる時に、自分だけアルバイトをすると言う苦痛を考えると、シルヴィアはやるせなさと後悔から、涙がにじんできました。
そして再びジタバタしていると、いつの間にか部屋の中に、誰かが居る事に気付きました。
赤い髪に白い肌をして、お尻の尾てい骨の辺りからシッポが伸びている女の子、ラルでした。
シルヴィアは、ネコさんクッションを抱えて、しゃくとり虫のような格好でラルを見て言いました。

シルヴィア「いつの間に!」
ラル    「いやノックしたし…と言うか何してるの?」

シルヴィアは、お金がないからジタバタしていたと言うのが恥ずかしいため
何とか上手い言い訳を考えようとしたのですが、時すでに遅く
ラルの手には、床に置いてあった、シルヴィアのネコさん財布が乗っていました。

シルヴィア「あ、ダメ!見ないで!」
ラル    「あ、軽ッ」

シルヴィアは、現実を直視したくないという事から、ネコさんクッションで顔を隠しました。
ラルは、シルヴィアのお小遣いが残り少ない事を察しました。

ラル    「んもう、変なのばっかり買うから〜」
シルヴィア「うう」

シルヴィアが恥ずかしさから、ネコさんクッションを無理矢理端から丸めているのを見たラルは
仕方ないと思い、少しため息混じりに言いました。

ラル    「じゃ今日は私がおごってあげるから、遊びにいこーよ!」
シルヴィア「いいの?」

シルヴィアは、目を輝かせました。

ラル    「だってほっといたら、ずっとジタバタしてそうだし」

そうして2人は、とりあえずは城下町をウロウロしよう、という事にし、家を出ました。
城下町を行く、エムブラースク時代の衣装を着た騎士の人と世間話をしたり、出店を出入りしている内に
シルヴィアとラルの2人は、ふと、フィオナ祭の初日に、人が多くて入れなかった「アーリオン教会」に、再び行ってみる事を思いつきました。
アーリオン教会は、今まで歩いてきた道と反対方向だったため、城下町のメインストリートを逆戻りし、後10分程で教会に着くだろうか?という所まで来ました。
しかしここで、フィオナ王室の政務官の制服を着た女性が、シルヴィアとラルに近づいてきました。

政務官の女性「あなた達、ちょっと良いかしら?」

シルヴィアとラルは、いきなり声を掛けられてドキッとしました。
自分たちは王室とつながりは全くないため、何事かと思ったのです。

シルヴィア「な、なんでしょうか?」

女性は、シルヴィアとラルをジロジロと見て、言いました。

政務官の女性「うん、良いわね合格!」
ラル      「え、合格?」

シルヴィアとラルは、いきなり「合格」と言われてきょとんとしました。

政務官の女性「ああ、ごめんなさい、私はシェリル=レーマンの部下で、ステラと言います。
          シェリルって聞いたことない?結構有名なんだけど」

シルヴィアは、シェリルと言う名前に聞き覚えがありました。
以前読んだ美術雑誌に、シェリル広報官と、ユニス美術評論家の対談が載っていたのを覚えていたのです。

シルヴィア「あ、はい、確か王室の広報担当の方ですよね?」
ラル    「知ってるの?」
シルヴィア「うん、前雑誌で読んだの」

ステラは、満足そうにニッと笑顔を見せて言いました。

ステラ  「うんうん、それでね、今度そのシェリルが、フィオナ祭に相応しい企画を立てたのよ。
       それは、「ミス・フィオナ」って言う企画なの。
       簡単に言えば、フィオナ城下町で一番綺麗な女の子を決めようって言う話なのね。
       で、あなた達2人は、結構見所があると踏んで声を掛けたのよ」

シルヴィアとラルは、またきょとんとしてしまいました。

ステラ  「何ぼーっとしてるのよ、あなた達2人はかわいいから、出て見なさいって言ってるの」

シルヴィアとラルは、お互いの顔を見合わせました。

シルヴィア「え、ええ、でもラルはともかく、私はそんなに…」
ラル    「ええ、逆でしょ、シルヴィアは綺麗だけど私は…」

ステラは、含み笑いをしながら言いました。

ステラ「ほら、お互いをかわいいって思ってるんでしょ?十分じゃない。
      それに、参加賞も出るわよ?」
ラル  「ノートと鉛筆とか?」

ステラは、あきれた様子で言いました。

ステラ「あのね、学園祭の催しじゃないのよ?出るだけで1万円!破格でしょ?」

1万円と聞いて、シルヴィアは目を輝かせました。
ステラが、今の金欠状態を脱出させてくれる、救助船に見えたのです。

シルヴィア「で、出てみようかな〜?ね、ねえラル?」
ラル    「出るの!?私は出ないよ!」

ステラは、残念そうに言いました。

ステラ「えーなんで?あなた出ないのお?」
ラル 「だって、私シッポ生えてるし、目立つのやだよ」
ステラ「あら、これアクセサリーじゃないの?」

ステラは、ラルのシッポをぐいぐいと引っ張りました。

ラル 「痛い!痛い!」

ラルが痛がっているのを見て、ステラは驚いてパッと手を離しました。
そしてステラは、フィオナ城下町に悪魔が住んでいると以前聞いた事を思い出し、なるほどと思いました。

ステラ「あーはいはい、あなたがナル?ラル?ちゃんね、なるほどなるほど。
     まあ私としては、かわいければ誰でも出ちゃって構わないんだけど、やっぱり出たくない?」

ラルは、シッポの付け根をさすりながら言いました。

ラル   「うん、私の事知らない人も居るし」
ステラ  「そっかー、残念。でも、あなたの方は出てくれるのね?」

シルヴィアは、ラルはこの際、皆の前に堂々と出た方が、皆ラルの存在を理解してくれるのではと思いましたが
それを強要するのは、やはりダメだと思い、自分だけが出る事にしました。
ラルと一緒に出れないのは心細いけれど、金欠解消のためには、背に腹は代えられないと思ったのです。

シルヴィア「はい、出ます」

ステラは、よしと言う声と共に、シルヴィアの手を取りました。

ステラ「じゃ、会場へ案内するわ。そうそう、ラルちゃんも会場には来てくれるでしょ?ギャラリーとしてね」
ラル 「あ、うん、見るだけなら」

そうしてステラは、2人を、ミス・フィオナの会場がある、フィオナ中央公園へと案内しました。
フィオナ中央公園は、城下町の住人を全員収容出来る程の、大規模な公園です。
そこに建つミス・フィオナの会場は、5日間の突貫工事ながらも、フィオナ中の建築業者が協力して作った、背の高い立派な建物で
舞台は装飾でキラキラと輝き、舞台裏の控え室も、とても広々としており、フィオナ祭が終わった後に取り壊すには
あまりにももったいないような、完成度の高い造りをしていました。

会場のギャラリー席には、当日募集ながら、既に5000人を越す、多数の観客が押し寄せており
審査員席には、アルヴィン6世や、側近のクリフォード=ヴォルトンらのフィオナ王室勢
美術連盟事務局長グラハム=マードックや、美術家のベッキー=オールストンら美術連盟勢
そして、フィオナ王国でファッション誌を発行している編集者・編集長等、総勢15名が並んでいました。

シルヴィアは、思ったよりはるかに規模の大きな大会だと知り、思わずしり込みしましたが
ここまで来てしまっては引き返すわけにも行かず、何より金欠脱出ために頑張る覚悟を決めたのです。
ステラは、出場者控え室までシルヴィアを案内し、そこで背中をポンと押してシルヴィアを送り出しました。

控え室の入り口で、直径7センチ程の丸い型紙に、番号が振られ、安全ピンがついたナンバープレートを係員からもらい、シルヴィアは左胸に着けました。
シルヴィアのナンバーは102で、自分の他に最低でも101人は居るんだと思うと
何となくシルヴィアも、「せっかく出るのなら、なるべく上位で終わりたい」と思うようになってきました。

控え室に入って5分程は、緊張から視界が狭くなっていたのですが、徐々にその場に慣れ
どういう女の子達が出場するのかと、周りを見渡す事が出来るようになってきました。
やはり、こういう場に出場するだけあり、それぞれタイプは違えども、皆かわいく、自信を失いかけたシルヴィアですが
ここで、見知った女の子が一人居る事に気付きました。
シルヴィアは、その女の子に早歩きで近づき、声を掛けました。

シルヴィア「ヴィヴィアさん!」

そこには、2年前にシルヴィアからペンダントを奪い、ラルを刺殺しようとした盗賊からラルを守り
ペンダントを取り返してくれた、ヴィヴィア=エアハートが居たのです。
ヴィヴィアは、長身でスタイルも良く、周りの女の子よりも、輝いて見えました。
シルヴィアの顔を見て、ヴィヴィアは驚いた様子を見せましたが、すぐに微笑んで対応してくれました。

ヴィヴィア「シルヴィアさん!あなたも来てたのね」
シルヴィア「はい、お金がなかったから、つい参加費に釣られちゃって…」
ヴィヴィア「ふふ、なるほどね、そうだ、ラルちゃんは出ないの?」
シルヴィア「はい、やっぱり大勢の前に出るのは、まだ抵抗があるみたいなんです」

ヴィヴィアは、指をお腹の前で組みました。

ヴィヴィア「そっか、やっぱり中々難しいものね…ギャラリーには来ているの?」
シルヴィア「あ、はい、多分どこかで応援してくれるはずです。
       ヴィヴィアさんは、一人で来たんですか?」

ヴィヴィアは、苦笑いを見せました。

ヴィヴィア「うーん、それがね…」

その時、シルヴィアとヴィヴィアの後ろ10メートル程から、女性の高く大きい声がしました。

女性「もーまったく、やっぱり誰も彼も美しくないですわ、美しくない!」

ヴィヴィアは、その声にギクッとし、後ろを振り返って言いました。

ヴィヴィア「ちょ、ちょっと、ベアトリクスさん、声が大きいわよ!」

シルヴィアも後ろを振り返ると、そこには、ヴィヴィアと同じ位の長身でスタイルも良く
サラサラの流れるような金髪を持った、美しい女の子が居ました。
そしてその女の子は、シルヴィアとヴィヴィアに近づいてきました。

ベアトリクス「はー、ヴィヴィア?結局この大会は私と貴女の…あら、この方はどちら様?」

シルヴィアは、ベアトリクスと呼ばれたこの女の子に、ちょっと頭を下げて自己紹介しました。

シルヴィア「あ、ど、どうも、シルヴィア=オールディスです。ヴィヴィアさんとは…」

シルヴィアの言葉をさえぎって、ベアトリクスは、シルヴィアにいきなり顔をぐいっと近づけて、シルヴィアをマジマジと見ました。
シルヴィアは、あまりの急接近に、目を丸くして思わずドキドキしてしまいました。

ベアトリクス「ふーん、良いわね、悪くない…いえ、美しいわ…うん、美しくてよ」
シルヴィア 「え、ええ?」
ベアトリクス「でもね、貴女、ノーメイクは宜しくなくてよ?せっかくの素材を生かしきれてないわ。
        そんな心構えでは、私達の足元にも及ばなくてよ?」
シルヴィア 「え、いや、あの」

そこにヴィヴィアが、割って入りました。

ヴィヴィア 「ほらもう、ベアトリクスさん!分かったから!シルヴィアさん困ってるでしょ!」

ベアトリクスは、ヴィヴィアの方をチラッと見て、1歩後ろへ下がりました。

ベアトリクス「いやですわ、この子に肩入れしていて?どうせこのコンテストは、私と貴女の見せ場で終わるのよ?
        ま、せいぜいこの子にメイクでもしてあげる事ですわね。ごめんあそばせ」

そう言うと、ベアトリクスは、さっさとどこかへ行ってしまいました。
シルヴィアは、一体何が起こったのか良く分からず、呆然としてしまいました。

ヴィヴィア「もーまったくベアトリクスさんは…シルヴィアさん、ごめんなさいね。
       彼女は悪気はないのだけど、綺麗な人を見ると、ライバル心みたいのが出て、いつもあんな感じなのよ」
シルヴィア「はぁ…でも、綺麗な方でしたね」

ヴィヴィアは、そう聞いて微笑みました。

ヴィヴィア「ええ、彼女は、日ごろからとても努力してるのよね。
       自分の美しさを素直に認めてくれた人には、とても甘えん坊になるのよ」
シルヴィア「あ、それでヴィヴィアさんも、ベアトリクスさんを褒めちゃったとか」

ヴィヴィアは、ちょっと困った笑顔を見せました。

ヴィヴィア「ええ、それで、変な話なのだけど、彼女とは親友になっちゃったのよね。
       このコンテストも、彼女から誘われて出た感じなの」
シルヴィア「そうなんですか、へえ…」

実際シルヴィアは、ベアトリクスの言う通り、ヴィヴィアとベアトリクスは、少なくとも優勝に近い位置に行くだろうと思いました。
それほど2人は、存在感のある女の子だったのです。

ヴィヴィア「そうそう、ベアトリクスさんじゃないけど、シルヴィアさんはメイクはしないの?
       まだ開幕まで時間があるみたいだし、した方が良いんじゃないかしら」

そう言われて、シルヴィアは困ってしまいました。

シルヴィア「あ、あの私メイクってほとんどした事なくて…化粧水とか乳液は毎日つけてるけど
       ちゃんとしたメイクのやり方って、全然分からないんです」

ヴィヴィアは、なるほどと思いました。

ヴィヴィア「うーんそっか、それじゃ、今私もそんなに道具持ってないけど、簡単なメイクをしてあげるね」
シルヴィア「本当ですか?ありがとうございます!」

ヴィヴィアは、携帯していた小型の化粧ポーチから道具を取り出し
シルヴィアの元々の肌の綺麗さを生かし、ごく薄い色のチークとリップ、アイラインを入れ、シルヴィアの魅力を自然に引き立たせるメイクを施しました。

ヴィヴィア「うん、かわいいかわいい」
シルヴィア「そ、そうですか?えへへ」

そして、この時と同時に、コンテストの開始を告げに、係の女性が小走りで控え室にやってきました。

女性「それでは、開幕します!1番の方から順番に、私へ付いてきてください!」

控え室の女性達は、お互いの番号を確認して、順番に並んで係りの女性へ付いていきました。
ヴィヴィアは32番だったため、シルヴィアとは大分離れた位置になってしまい
シルヴィアはまた少し心細くなりましたが、自分を励まして前へ進んでいきました。

舞台が近づくと、歓声が徐々に大きく聞こえ、シルヴィアの緊張度も上がっていきました。
舞台の袖に付くと、ここからは10秒置きに一人ずつ舞台に上がる事を、係の女性から告げられました。
1番の女の子から順番に舞台へ上がって行き、一人舞台に上がるたびに大きな歓声が聞こえ
シルヴィアの前に居る女の子がどんどん視界から消え、そして102番のシルヴィアにも、ついに舞台に上がる時が来ました。

舞台へ上がる階段にもう少しでつまづきそうになりながらも、そこで緊張を懸命に振り払い
シルヴィアはしっかりした足取りで、舞台へと上がりました。

シルヴィアが、ギャラリー席から見える位置まで来ると、大きな歓声が上がり、シルヴィアを褒め称える声がそこかしこで聞こえました。
ギャラリー席の最前列にはラルもおり、シルヴィアへ声援を送っています。
ラルの姿を見たシルヴィアは、ホッとして、自信に満ちた歩きで101番の女の子の隣へと並びました。
シルヴィアの後からは、4人が続き、ここに総勢106人の女の子による、ミス・フィオナが開幕されたのです。

舞台袖から、司会者の男性が出てきて、挨拶を始めました。

司会者「あーテス、マイクOK?はい…はい!いよいよ始まりました、フィオナ祭第一回、ミス・フィオナ!
     ワタクシ、司会のジルベルトと申します!今日一日、お付き合いの程宜しくお願い致します!
     そして参加者の女の子、およびギャラリー席の皆様!急な募集にも関わらず、多数のご参加を頂き、まことにありがとうございます!
     フィオナ城下町で、一番美しい女の子を決めるこの大会!もちろん、勝っても負けても恨みっこなしで参りましょうね!
     それでは、まず最初に、この企画を立案した、フィオナ王室広報担当、シェリル=レーマン広報官からの一言を頂戴致します!どうぞ!」

シェリルは、審査員席から舞台壇上に上がりました。

シェリル「ただいまご紹介に預かりました、シェリルです。よろしくお願い致します。
      我がフィオナ王室は、国民の皆様に密着、密接した政策をスローガンに国を運営していますが、やはり、まだまだ頭の固い私達です。
      今回のフィオナ祭をきっかけに、もう一歩進んだ、より良い国作りを出来ればと思っております。

      さて、今回お集まり頂きました皆様の、なんと美しい事でしょうか!
      美に疎い私にも、その美しさに目が焼かれてしまうような感覚が致します。
      私的には、全員を優勝にして差し上げたいところですが、それはそれ
      美しき彼女達の、美しき競争を、国民の皆様と共に観賞させて頂きたいと思います。

      さて、挨拶が長くなってしまい、皆様さぞ退屈されている事でしょう。
      再び、司会者のジルベルト様にマイクを戻したいと思います。
      それではジルベルト様、コンテストの内容の説明の方をお願い致します」

シェリルは、マイクを司会のジルベルトへ戻し、審査員席へと戻っていきました。

ジルベルト「シェリル様、ありがとうございました!
       今回のミス・フィオナ、まず最初に、普段着のスタイル審査から始め、過酷なようですが、ここで40名に絞らせて頂きます!
       審査員の方々と、皆様のお手元の得点ボタン、その合計点の上位40名がここで残ります!

       次に待ち受けるは、規定の水着に着替えて頂き、セクシーアピールをして頂きます!
       かわいいだけじゃこの大会通用しません!プリティー・アンド・セクシー!この総合点で、上位15名が残ります!

       さて、ここまで残った女神達は、もはや外見だけで勝負を付けるのは難しいでしょう。
       そ・こ・で、次に行って頂くは、歌唱力のコンテストです!

       規定の楽曲を歌って頂いても結構ですし、好きな楽曲をセレクトして頂いても結構です!
       この3つの関門を潜り抜け、残るは5人!この時、5人には、それぞれ沢山のファンが付いている事でしょう。
       最後は、再び審査員の方々と、皆様の得点での合計で争いますが、この時、5人の内、一人にしか票は入れられません!
       その票の優劣、つまりファンの多さで順位を決め、ミス・フィオナを決定したいと思います!」

シルヴィアは、水着審査や歌唱力審査は想定外だったため、多少意気消沈しましたが
とりあえず、最初の40名に残る事を目標に頑張ろうと、密かに気合を入れました。

ジルベルト「それでは、まず一旦彼女達には、舞台袖に下がって頂きます。
       その後、1番の方から順番に登場して頂き、20秒間のアピールタイムを設けますので
       アピールが終了した時点で、審査員の方々と皆様は、得点を入力してください!
       その得点はこちらで集計し、早期に結果発表をさせて頂きます」

一旦舞台袖に下がったシルヴィア達ですが、5分後、再び1番の女の子から順に、アピールがスタートしました。
よしと気合を入れているシルヴィアの横で、シルヴィアの番号の前後
101番と103番の女の子が、途方に暮れた顔をして立っている事にシルヴィアは気付きました。

舞台上では、他の女の子の顔を見る余裕がなかったのですが、舞台袖に下がってみると
緊張もピークを過ぎて大分下降していたため、他の女の子の様子を見る余裕が出来ていたのです。
シルヴィアは、途方に暮れているその2人がとても気に掛かり
改めてマジマジと顔を見てみると、どうも、どこかで見たような顔である事に気付いたのです。

101番の女の子「ふぅ、全く、どうしたものか…」
シルヴィア   「あの…」
101番の女の子「え?…うっ!」

101番の女の子は、シルヴィアの顔を見て、ギョッとして、すぐに顔を横にそらしました。
その女の子は、とても知的な顔立ちで、薄化粧でとても美しい女性でしたが、あの人にとても良く似ていたのです。

シルヴィア 「…ブ、ブライアンさん…?」
ブライアン?「いえ、人違いでしょう」

ブライアン?は、即座に否定したものの、冷や汗をかいており
どう見ても怪しかったため、シルヴィアはカマを掛けてみる事にしました。

シルヴィア「ブライアンさん、実は頂いたペンダントが割れちゃったんです、代わりの物って作れますか?」

それを聞いたブライアン?は、反応せずには居られず、切り出しました。

ブライアン?「そうですか、それではコンテスト後に私の家に来てください、代わりのものを至急…」

ここでブライアンは、シルヴィアがカマをかけていた事にハッと気付き、しまったと言う表情をしました。
シルヴィアは、小声でコソコソと言いました。

シルヴィア「やっぱりブライアンさんじゃないですか!こんな所で何をやってるんです!」

ブライアンは、観念して言いました。

ブライアン「マルグリットですよ、マルグリットが、私を「面白くなるから」と言う理由で無理矢理エントリーしましてね。
       もちろん私は徹頭徹尾断りましたが…結局は権力者の強権で、今私はここに居るのですよ」

天を仰ぐブライアンに対し、シルヴィアは、ブライアンをとても不憫に思いましたが
もはや自分の力では、どうしようもない事は分かりました。

シルヴィア「どうするんです?もし40人に残ったら水着審査ですよ?」
ブライアン「いえ、まあ、大丈夫でしょう、アピールタイムに非常識な失敗をすれば良いのですよ。
       元より40名に残るとは思いませんが、より確実です。
       それより、シルヴィアさんは…」

ここで、103番の女の子が反応しました。

103番の女の子「え、シルヴィア?」

シルヴィアとブライアンは、103番の女の子の方を向きました。

103番の女の子「ちょま、うぎゃあ!シルヴィアさんじゃん!」

シルヴィアは、じーっと103番の女の子を見て、再び気づきました。

シルヴィア「…スチュアートさん…?」
ブライアン「おや、お知り合いですか?」
シルヴィア「前アルバイトをしてた時に、会った事があるんですよ…と言うかスチュアートさんなの!?何してるんですかこんな所で!」

スチュアートは、観念して言いました。

スチュアート「いやさ、俺、ちょっと前の仕事で超ドジやらかしてさ、シェリーさんに怒られてさ。
        その罰として、このコンテストに面白いから出ろって言われてさ…」
シルヴィア 「そうなんですか…でも、メイクとかして普通にかわいい女の子じゃないですか、笑える位かわいいですよ」
スチュアート「ああ、これはシェリーさんが…」
ブライアン 「ほう、あなたもその、女装ですか」

スチュアートは、ブライアンが女装している男性と言う事に気付き、少し気分が明るくなりました。

スチュアート「え、アンタも?マジで?そんな綺麗なのに?」
ブライアン 「それはどうも…まあ、40位以内に入らなければそれで良い話なのですが
        ただ、ざっと見回したところ、あなたの現在の外見では、40位内に入る可能性は高いかもしれませんね」

スチュアートは、愕然としました。

スチュアート「マジで?どうするの、と言うかアンタもどうするの?ヤバイんじゃないの?アンタも。
        明らかに周りの女の子より綺麗だよ」

ブライアンは、自信に満ちた笑顔をしました。

ブライアン 「先ほどシルヴィアさんとも話しましたが、舞台上で何らかの失敗、つまり評価を下げる行動を取れば良いのですよ。
        派手に転ぶなどの手段に訴えれば、確実でしょう」
スチュアート「なるほど、頭良いねアンタ」
ブライアン 「評価を下げる方法として、お互いの手段が重複すると効果的ではないでしょう、2種類の…」

シルヴィアは、だんだんと仲が良くなり、盛り上がりを見せる2人に微笑ましさを感じましたが
シルヴィア自身は、せっかく出場したのだから、上位を目指してみようと言う気持ちになっていたため
どのように自分をアピールするかを考えていました。

ブライアンとスチュアートの会話を尻目に、その場でクルクル回ってみたりしている内に
いつの間にか、85番の女の子まで順番が終了しており、それまでにアピールを終えた女の子達は
既に控え室の方に移動して、舞台袖に居る女の子は、シルヴィア達を入れて、わずか21人まで減っていました。

シルヴィアは、再び徐々に緊張して来ましたが、最初に舞台に上がった時よりは、その場の雰囲気に慣れていたため
何も考えられないと言うレベルではなく、またクルクルをして、アピールの最終自己チェックを行い、自分の出番を待つ事にしました。
そして、100番の女の子のアピールが終わり、ついに101番のブライアンの順番となりました。

舞台上に出たブライアンは、最初こそモデルのような颯爽とした足取りを見せたものの
舞台中央で、わざと左足を自分の右足にひっかけ、とても大げさな大転倒を演じ、ギャラリーからは「どっ」と言う大きな笑い声が聞こえました。
ブライアンは、その場を取り繕うような恥らう笑顔を見せ、お辞儀をして、トコトコと舞台袖へと戻ってきました。

戻ってきたブライアンは、右手の親指を立て、順番を待つシルヴィアとスチュアートに、勝ち誇った笑顔を見せました。
それを見たシルヴィアは、笑いを隠せずに居られませんでしたが、次はいよいよ自分の番だったため
キリッと気持ちを引き締めて、舞台袖の最前へと立ちました。

舞台袖で待機している係の女性が、手の合図で「どうぞ」と示したため、シルヴィアは舞台へと出ました。
元気良くシャキシャキっと歩き、舞台中央で右回りに2回、滑らかにクルクルっと回り、ポーズを決め
ギャラリー席へ女の子らしくかわいくお辞儀をし、左手で軽く手を振りながら、また舞台袖へ元気良く戻っていきました。

シルヴィア 「ふぃぃ〜」

控え室へまだ戻らず、舞台袖でシルヴィアを待っていたブライアンと
シルヴィアの次の番であるスチュアートが、シルヴィアを迎えてくれました。

ブライアン 「お疲れ様です」
スチュアート「うん、マジかわいかった!行けるんじゃない?」
シルヴィア 「そ、そーかなー」

シルヴィアは、照れてしまいました。

スチュアート「あ、次俺か!」
シルヴィア 「うん…ん?」

スチュアートを良く見ると、さっきまで普通に着ていたジャケットを、前後ろ逆に着ていました。

シルヴィア 「え、どうしたんです?それ」
スチュアート「これは、上着前後ろ作戦、ブライアンさんが考えてくれたんだよ」
ブライアン 「転ぶとという戦術は私が使いましたから、今度は服で評価を落とそうと言う戦術です。
        この状態なら、どんな美麗なアピールをしても、間の抜けた図になる事でしょう」

シルヴィアは、なるほどと思いつつも、ブライアンが意外とマヌケな作戦を考える事に、逆に親しみを感じました。
頭の良い人も、追い詰められると、なりふり構わなくなると言う事を悟ったのです。

舞台袖の最前に立ったスチュアートに、係の女性が「どうぞ」と合図をしたため、スチュアートは舞台上へ出ました。
スチュアートの登場時から既に、会場は「どよっ」と言う声に溢れましたが
スチュアートは舞台中央でかっこよくポーズを決め、クルッと1回転、お辞儀をして舞台袖へと戻っていきました。

スチュアート「よしよし、これで落ちたな」
ブライアン 「それでは、荷物が控え室に置いてありますので、持ってさっさとこの場から退散しましょう」
スチュアート「うん、シルヴィアさんは結果待ちでしょ?」
シルヴィア 「うん、はい、でも、2人も一応待った方が良いんじゃないですか?どうなるか分からないし」

スチュアートは、右手をヒラヒラさせて言いました。

スチュアート「ないない、シルヴィアさんはともかく、俺たち2人はないよ」
シルヴィア 「うーん、そうかな〜」

3人が控え室に戻ると、ヴィヴィアが迎えてくれました。

ヴィヴィア「おかえりなさい、モニターで見てたけど、とってもかわいかったよ!」

シルヴィアは、照れながら言いました。

シルヴィア「そ、そうですか?嬉しいな〜」
ヴィヴィア「うん、ん?この2人はシルヴィアさんのお友達なの?面白いアピールをしてたけど」

ブライアンとスチュアートは、なるべく他の出場者と会話をしたくないという事がありましたが
シルヴィアと一緒に控え室に戻ってきたという事から、挨拶をしない訳にもいきませんでした。

スチュアート「あーうん、お…ワタシ達は、前にちょっと会った事があって…」
ブライアン 「普段そんなに会う事はありませんが、とりあえず友人と言う間柄にしておいてください」

ヴィヴィアは、何か事情があるという事は察しましたが、普通に接する事にしました。

ヴィヴィア 「そうなんだ、私はヴィヴィア=エアハートです、よろしくお願いします」
ブライアン 「これはどうも、私はブ…いえ、リアン=コールフィールドです、よろしくお願いします」
スチュアート「ワタシは、えーと、スーチ=アストン、よろしくね」

3人は、握手をしました。
シルヴィアは、3人を見て、普通に綺麗な女の子3人としか見れず、なんだか不思議な気持ちになっていました。
この場から脱出するタイミングを完全に見失ったブライアンとスチュアートは
シルヴィアを入れた4人と、合否発表まで世間話をする事にしました。
通っている学校の事や、趣味の話をしていると、4人から10メートル程遠くに居たベアトリクスが、こちらに気付き、ツカツカと4人の元へ近寄って来ました。

ベアトリクス「あら、ヴィヴィア、その方達はどちら様?」
ヴィヴィア 「ん?うん、シルヴィアさんのお友達で、今知り合ったの」

ベアトリクスは、ブライアンとスチュアートを値踏みするように見て、言いました。

ベアトリクス「…ふーん…美しいわね。私はベアトリクス=ライアン、あなた達は?」
ブライアン 「私はリアン=コールフィールドです、あなたの方こそ、お美しいですね」
スチュアート「ワタシはスーチ=アストンです、うん、ホント綺麗だよね」

ベアトリクスは、パァっとした、かわいい笑顔をしました。

ベアトリクス「うん、そうよ!分かってるじゃない貴女達!シルヴィアさんも聞いたわよ、私が美しいですって?」

シルヴィアは、いきなり話を振られてギクッとしました。

シルヴィア 「あ、はい、綺麗だな〜って」

ベアトリクスは、シルヴィアの両肩に手を置いて自分に引き寄せ、笑顔で話しました。

ベアトリクス「うんうん、貴女良い子ね。さっきはごめんなさいね、貴女もとっても美しいわよ。
        このコンテストは私達5人のものよ!でも負けなくてよ!私は1位を目指すわ!」

ベアトリクスは、シルヴィアの頭を優しくなでた後、高笑いをしながらどこかへ行ってしまいました。

スチュアート「え、なに、あの人、台風?」
ブライアン 「良い表現です。ただ、心の根底は綺麗な方のようですね」
ヴィヴィア 「うん、誤解されやすいけど、彼女は正義感も強いし、本当は優しくて良い子なのよ。
        表現がちょっとストレートだけどね」
シルヴィア 「はぁ…あ、合格発表の紙が貼り出されましたよ!」

控え室の前面に置いてある大きなホワイトボードに、係の女性2人が、合格者の番号を記載した模造紙を貼り始めました。
それを見て、喜びの声を上げる女の子と、ため息をつく女の子でホワイトボードの前は人だかりが出来ており
シルヴィア達は、ホワイトボードの遠くにいたため、人が少なくなるまで待つ事にしました。
しかし、ブライアンとスチュアートは、自分の荷物を持って、既に帰る用意を始めていたため、ヴィヴィアは、2人を引き止めました。

ヴィヴィア「ちょ、ちょっと、あの、どうしたんですか?もう帰る用意なんてして」

それを聞いて、ブライアンが答えました。

ブライアン 「いえ、モニターをご覧になっていたのならお分かりでしょうが、私達2人が合格する事はないかと」
ヴィヴィア 「確かにちょっとドジでしたけど、一応、皆で確認しましょうよ」
スチュアート「ダメなはずだけどねえ」

そうしている内に、ホワイトボードの前が空いてきたため
シルヴィア達4人は、確認をしに向かいました。

シルヴィア「えーと、ヴィヴィアさんが32で、ベアトリクスさんは何番でしたっけ?」
ヴィヴィア「26よ」
シルヴィア「そっか、で、私が102で、2人が101と103と…どうかな〜」

合格番号と、寸評が書かれた模造紙の前に4人がたどり着き、シルヴィアが若い番号から指差し確認しました。

シルヴィア「あ、やっぱりヴィヴィアさんとベアトリクスさんは残ってますよ!
       寸評は、ヴィヴィアさんは「かわいくて綺麗で、とてもスタイリッシュ」だって!」

ヴィヴィアは、照れた様子で答えました。

ヴィヴィア「あはは、嬉しいけどちょっと恥ずかしいわ」

シルヴィアは、さらに番号を指差し確認していきました。

シルヴィア 「えーと、あ、私も残ってる!「とにかくかわいい、健康的な元気さがとても魅力的」だって、恥ずかしいな〜。
        で、101番と、103番も…あ、残ってる…」
スチュアート「えっ」
ブライアン 「いえ、見間違いでしょう」

ブライアンも指差し確認しました。

ブライアン「ほら、見間違いですよ、102がシルヴィアさんでしょう?で、その前後の101と103……バカなァ!」

ブライアンは、絶句しました。
スチュアートも、どうすれば良いと言う表情で、呆然としていました。
ヴィヴィアは、2人の様子を見て、不思議に思いました。

ヴィヴィア 「あの、嬉しくないんですか?せっかく残ったのに」

スチュアートは、かろうじて言葉を出しました。

スチュアート「いや、この後水着審査じゃん…」

そう聞いて、ヴィヴィアは、ハッと気付きました。

ヴィヴィア「あ、もしかして、スタイルに自信がないんですか?
       大丈夫ですよ、3人がここに来る前に、用意された水着が先に来てて、見てみましたけど
       普通のビキニと、ふりふりの沢山付いたワンピースがありましたから、ふりふりの方を選べば良いんですよ」

シルヴィアは、男の人が女の子の水着を着て、5000人を超える人の前でセクシーアピールをすると言う事情を考えると
2人が不憫で仕方ありませんでしたが、だんだん、それはそれで面白いと思うようになってしまいました。
そう考えている内に、規定の水着を提供する係の女性が、一次選考通過者に集まるように呼びかけを始めました。

シルヴィア「うん、そうですよ、ふりふり着れば良いんですよ、ふりふり」

ブライアンとスチュアートは、シルヴィアの言葉を聞いて、味方を失った気がしました。
スチュアートは小声で、シルヴィアに話しました。

スチュアート「ちょっとシルヴィアさん!俺達の味方じゃないの!」
シルヴィア 「いえ味方ですけど、ここまで来たら、もう諦めて着るしかないじゃないですか…」

一呼吸置いて、ブライアンも小声で言いました。

ブライアン 「棄権と言う手もありますが、マルグリットの手前許されないでしょうね。
        マルグリットが審査員席に居るのを、先ほど見てしまいました。私を見て楽しむために居るのでしょうね、ふぅ」
スチュアート「俺も棄権したら、シェリーさんに何言われるか分かんないしなぁ。
        クレメンス代表で審査員席に居るんだよ、はー」

2人は、ため息をつきながら、トボトボと水着を提供する係の女性の方へ向かいました。

ヴィヴィア「そんなにスタイルに自信がないのかしら…そんな事ないと思うけど…。
       じゃあ、私達も行きましょうか?シルヴィアさんはどっちを着るの?」
シルヴィア「あ、えーと、どうしよう?ヴィヴィアさんと同じのにしようかな」
ヴィヴィア「私はふりふりとかあんまり似合わないと思うから、ビキニにするつもりよ」

そうして、シルヴィアとヴィヴィアは、サイズに合った白いビキニの水着を受け取り
黄色いカーテンで仕切られた着衣室で、普段着から水着へと着替えました。
番号札は、普段着から水着へ移すように指示が出されていたため、シルヴィアは左胸へと移しました。
着衣室のカーテンを開けると、ヴィヴィアも着替え終わったようで、カーテンを開けて出てきました。

シルヴィア「うわ、ヴィヴィアさん、スタイル良いですね。うらやましいな」
ヴィヴィア「ふふ、ありがとう。でもシルヴィアさんもステキよ」

そう話していると、向かいの2箇所の着衣室のカーテンが同時に空き
ふりふりの白いワンピース水着を着た、ブライアンとスチュアートが出てきました。
2人が男性と言う事を知っているシルヴィアは、笑いをこらえるのに必死になりましたが
男性と知らないヴィヴィアは、素直に2人を褒めてしまいました。

ヴィヴィア 「わぁ、凄くかわいいじゃないですか!いけますよ!」
スチュアート「そっスか…」

40人の女の子(内2名は男性)が着替え終わった事を確認した係の女性は
全員を、まだ合格者ナンバーの貼ってあるホワイトボードの前に集め、次のプログラムの説明を始めました。

女性「先のプログラムでは、個人で好きにアピールをして頂きましたが
    今回は、優劣がないよう、全員に同じ動きでアピールをして頂きます。
    まず、舞台右側から入り、左端まで歩き、ギャラリー席左側へポーズを決め、ターン」

女性は、シルヴィア達から見て、5歩ほど右に歩き、ポーズを取り、ターンをして左を向きました。

女性「次に、舞台中央まで行き、ギャラリー席中央へ向けポーズを決めます」

女性は、3歩左へ歩き、正面を向いてポーズを取りました。

女性「その後、舞台右端へ行き、ギャラリー席右側へポーズを取り、舞台袖へと戻ります」

女性は、2歩左へ歩き、ポーズを取り、シルヴィア達の方へ向きました。

女性「ちなみに、舞台にはビニールテープでバツ印がつけられていますので、移動の際のおおよその目安としてください。
    何かご質問がなければ、舞台袖へと移動して頂きます。
    大丈夫ですか?…はい!では、皆さん番号順に私について来てください!」

最初と同様、お互いの番号を確認し、係の女性の後から付いていきました。
シルヴィアが後ろを確認すると、どうやらスチュアートから後の番号の女の子3人は、最初のアピールで全滅してしまったらしく
ブライアン、シルヴィア、スチュアートが、最後尾となりました。
全員が舞台袖へ着くと、司会者のジルベルトの声が聞こえてきました。

ジルベルト「…さぁさぁ!お待ちかね!次は、40人の女神達による、水着コンテストです!
       ワタクシ、普段紳士で通しておりますが、今回ばかりはハメを外してしまいそうです!
       もちろん、審査員の方々、そしてギャラリー席の男性方もそうでしょう!
       おおっと、カメラはいけませんよ!レンズのフィルターを通さないから価値があるんです!
       あなたの網膜と言う名のフィルムに、女神達の姿を焼き付けてください!
       それでは、まず最初の方から参りましょう!お願いします!」

会場は、歓声に包まれました。
舞台袖の係の女性の合図で、1番目の女の子から順に、アピールがスタートしていきました。

シルヴィアは、先ほどホワイトボードの前で係の女性が教えてくれた一連の動きを頭の中で思い出し
チョコチョコ動いては、ポーズを決めて動きを確認していました。
一人舞台へ上がるたびに歓声が聞こえ、ベアトリクス、ヴィヴィアの2人は先にアピールを終え
目線でシルヴィア達に挨拶をし、控え室へと戻っていきました。

そしていよいよ、ブライアン、シルヴィア、スチュアートの番が回ってきました。
係の女性が、ブライアンへ「どうぞ」と言う合図を送ったため
ブライアンは、小声で「ええい」とつぶやき、舞台へと上がっていきました。
はた目には、綺麗な女性としか見えないブライアンは、何かが吹っ切れたように、ビシッビシッとポーズを決め、会場は大歓声に包まれました。
その様子を見たシルヴィアは、「綺麗」と思うと共に、内心ライバル心を燃やしてしまったのです。

舞台袖へ戻ってきたブライアンへ、シルヴィアとスチュアートは、音を立てない小さい拍手をし
次の番となるシルヴィアは、舞台袖の最前へと立ちました。
係の女性が、シルヴィアへ「どうぞ」と合図を出したため、シルヴィアは「元気良く」を意識し
まず最初の目標の左端へのバツ印へと歩き、ギャラリー席左へ向かい、片手を腰に当て片足に体重を乗せるポーズを決め、次に中央のバツ印へ移動。
ギャラリー席中央を向き同じポーズを決め、最後のバツ印へと向かい、ギャラリー席右側へポーズを決め、大歓声の中、舞台袖へと下がりました。

最後は、スチュアートのアピールです。
ブライアンと同様、恥ずかしさを振り切ったスチュアートは、ブライアンに負けず劣らずのアピールを決め、歓声に包まれ舞台袖へと戻っていきました。
ブライアンとシルヴィアに拍手で迎えられたスチュアートは、安心したせいで今頃恥ずかしさが来たのか
10秒程地面に突っ伏してしまいましたが、何とか立ち上がり、3人で控え室へ続く廊下を歩きました。

スチュアート「はー、でもさ、シルヴィアさんはともかく、もうこの辺りで俺達2人は潮時でしょ?」
ブライアン 「まあそうでしょうね、いくらなんでも、本当の女性に魅力で勝てるとは思いませんよ」

シルヴィアは、「実はそうではないかも」と思い、多少おどしを含めた意見を言ってみました。

シルヴィア 「でも、私は2人を綺麗でかわいいと思いましたよ。案外残っちゃったりして」
スチュアート「いやーないわー、ないない」

ここでふと、ブライアンは気になった事をシルヴィアに聞きました。

ブライアン 「そう、ところで、ラルさんは今回出場していないのですか?」
スチュアート「え、誰?」
ブライアン 「シルヴィアさんのご友人ですよ、彼女も中々に魅力的だと思いましたが」

シルヴィアは、ブライアンとスチュアートに、今回ミス・フィオナに出場した事情と
ラルは目立ちたくないと言う理由で出なかったという事を話しました。

スチュアート「あーはいはい、ラルさんって、あのラルさんね、確か悪魔なんだっけ?」
シルヴィア 「うーんそれが、ラルは悪魔じゃないんですよ」
ブライアン 「ほう?それは興味深いですね、聞かせて頂けますか?」

3人は、控え室へ続く廊下にある途中の、簡易ベンチで話し始めました。
シルヴィアは、フィオナ王国騎士団第1隊隊長のブラッドリー=ミルズから聞いた
元々メリエル大陸に悪魔と言う存在はなく、エムブラースク・アルダス連合軍が
ザンティピー人を「悪魔」と呼び始めた事が、現在ザンティピー人を「悪魔」と呼ぶきっかけになっていると言う事を話しました。

スチュアート「へー、じゃつまり、「ザンティピーの悪魔」、じゃなくて、「ザンティピー人」が正しいわけね?」
シルヴィア 「うん、そういう事になります。ただ、ラルもラルのお母さんもフィオナ生まれだから
        ザンティピー人の血を引いてるフィオナ人、と言うのが正式になるみたいなんですよ」

ブライアンは、少し間を置いて話しました。

ブライアン 「なるほど、実は今私は、アルヴィン6世公の「統合メリエル人」の論を支持する論文を書いているのですが
        ザンティピー人が「悪魔」と言う特殊な存在ではないのなら、アルヴィン6世公の論は飛躍的に現実味を帯びる事になります。
        しかし気になるのは、そのブラッドリー=ミルズと言う人物…」

ブライアンが話しかけているところへ、ヴィヴィアとベアトリクスが小走りでやってきました。

ベアトリクス「ちょっと貴女達、こんな所で何をしていて!?早く控え室へ行きなさい!」

3人は、ミス・フィオナの最中と言う事をすっかり忘れていました。

ブライアン 「これは失礼、シルヴィアさんが通過したのですか?」
スチュアート「あ、そっか、じゃ、お…ワタシ達はここまでだねー」

ヴィヴィアは、右手を左右にブンブンと振りました。

ヴィヴィア「そうじゃなくて、私達全員が15人の中に残ったんですよ!
       今、次の歌唱力コンテストの選曲作業をしてるから、早く来てください!」

シルヴィア達3人は、顔を見合わせました。
ブライアンとスチュアートは、「まさか」と思いましたが、ヴィヴィアとベアトリクスが嘘をつく理由はどこにもなかったため
素直に信じるしかなく、その場に居た5人は、早足で控え室へと向かいました。

控え室に着くと、ホワイトボードの前で、誰が何を歌うかの選曲作業が行われており
既に曲が決まった女の子には、ヘッドホンステレオ式の小型オーディオプレイヤーが渡され
それぞれが、思い思いの場所で練習をしていました。

規定の曲は、フィオナ・オーディオ・ミキサー社(通称FAM)所属の人気歌手「アリッサ=エイリー」の代表曲「Baby, Baby」が採用されており
ヴィヴィアとベアトリクスと、他2人が、この曲を選んでいます。
シルヴィアは、アリッサの楽曲は大好きですが、アリッサと肩を並べる人気歌手「アネット=メルヴェル」へ、アリッサが楽曲を提供した
奇跡のコラボ曲「Maximum style」が、とても好きだったため、それを歌う事にしました。

ブライアンは、男性人気グループ「White Angel」の「Don't say, Angel」を歌う事にし
スチュアートは、若手No1と言われる「デージタ=ミース」の「ダブ・ステープ」を歌う事にしました。
ブライアンもスチュアートも、係の女性から「男性の楽曲ですが」と聞かれましたが、「好きなので」で通しました。

練習時間は20分で、その間会場では、フィオナを代表するコメディアンの「ガスター=ミーン」と「チャール=チーリン」らが、観客を大いに沸かせていました。
そして、練習時間が過ぎ、係の女性がホワイトボード前で集合をかけました。

女性「さて、では、これから皆さんは、事実上最後のコンテストへと向かう事になります。
    このコンテストを通過すれば、後は課題はなく、純粋にファンの多さで優勝が決定いたします。
    私の見立てでは、皆さんの魅力は伯仲しており、誰が優勝してもおかしくないと思っています。
    ここで力を出し切って、優勝を目指して頑張ってください!」
全員(-2名)「はい!」

係の女性は、足元に置いてあった箱を持ち上げました。

女性「今回は、クジで舞台に上がる順番を決めていただきます。
    最初からランダム性を持たせられれば良かったのですが、人数が多くて準備が至らず、申し訳ありませんでした。
    ちなみに、クジをお引きいただいても、今までの番号は変わらず、舞台に上がる順番だけが変わりますので、混同しないようお願い致します。
    それでは、まず7番のパトリシアさん、お引きください」

次々にクジは引かれていき、ヴィヴィアは3番、ベアトリクスは9番になりました。
ブライアンは12番となり、次はシルヴィアが引く番になりました。
しかし、この段階で空いている番号は、トップバッターの1番と、最後の15番しかなく、どちらを引いても注目を集めてしまうため
印象付けると言う意味では有利なものの、他の人と比較されやすく、また単純に恥ずかしいと言う難点を持ちました。
シルヴィアは、クジの箱に右手を入れ、迷っても仕方ないと思い、ゴソゴソをせずに「ええい!」と思い切って一発でクジを引きました。
三角に折られたその紙を開くと、「15」と書かれていました。

シルヴィア 「15です。15番」
スチュアート「うぎゃあ」

スチュアートが、悲鳴に近い声を上げました。
これにより、スチュアートの1番が確定したのです。

係の女性の隣に居た書記の女性は、ホワイトボードと手元の用紙へ全員の名前と順番、歌う曲を書き
司会のジルベルトへ用紙を渡すため、先にその場を後にしました。
残った係の女性は、追加の説明を始めました。

女性「それでは、舞台上での歌い方について説明致します。
    今回のコンテストは、フィオナ・オーディオ・ミキサー社、FAMですね、の全面協力で
    本格的なライブと、ほぼ同一のサウンドシステムを構築して頂いています。

    まず司会のジルベルト様が、皆さんのお名前と、今までのコンテスト結果の寸評のアナウンスをします。
    その間にマイクスタンドの前に立って頂き、アナウンスが終わったところでイントロがスタートしますので、力いっぱい歌ってください。
    舞台上の前部にはモニターがあり、歌詞が随時表示されますので、もし歌詞を忘れてしまった場合は、そちらのモニターをご覧ください。
    それでは、何かご質問はありますか?」

ベアトリクス「はい」

ベアトリクスが、手を上げました。

女性    「はい、ベアトリクスさん」
ベアトリクス「この回は、あくまで歌唱力のみのコンテストになりまして?
        それとも、ダンスを入れたりですとか、ある程度自分を表現しても構わないのかしら?」
女性    「はい、ありがとうございます、良いご質問です。
        今回は、審査員と観客の方を、どれだけ盛り上げるかも重要な得点対象となりますので
        ダンスを取り入れたり、舞台上を歩き回ったり、手拍子を求めたり、サビの一部を観客と歌うなどをしても構いません。
        ただ、一部のハードロッカーのように、舞台上の装置を破壊するなどの行為だけは禁止させて頂きます。
        よろしいでしょうか?」
ベアトリクス「分かりましたわ」
女性    「はい、それでは、他にご質問のある方は居ませんか?
        …居ないようですね、それでは、舞台袖の方に移動を開始致します。
        私についてきてください」

15人が、係の女性の後ろに従い歩く途中、先頭を歩くスチュアートは、緊張で気持ち悪くなっていました。

スチュアート「うえー、俺が1番か…観客に同じクラスのやつが居たら、俺ここで悶死するんじゃないかな」
ブライアン 「ああ、そういえばあなたは高校生でしたか?」
スチュアート「うにゃ、まだ中3だよ、学校終わったらクレメンスで働いてるけどね」

シルヴィアは、スチュアートが同じ学年だと知り、意外に思いました。

シルヴィア 「あれ?私と同じ学年なんですか?あんな大きな剣を持ってたりとか、私の中学校だと一人も居ないですよ」
スチュアート「ああ、俺、早く冒険者を本業にしたくてさ、シェリーさんに高校は行けって言われてるけど
        多分ほとんどサボっちゃうんじゃないかな、今も出席日数ギリギリだしね。
        でも、クレメンスの仕事はサボらず頑張ってやれる自信は、凄いあるんだよねー」
ブライアン 「ふふ、将来のビジョンがしっかり出来ているなら、まあ学校は適当に済ませても構わないですよ」

その言葉に、シルヴィアは驚きました。

シルヴィア「あれ、ブライアンさんって、なんだか秀才タイプと言うか天才タイプと言うか
       そんな気がしますけど、意外ですね、学校は適当で良いとか」

ブライアンは、微笑んで言いました。

ブライアン「学校は、何かをするための準備をするところであって、強制的に行かされる場所ではありませんよ。
       社会は、子供に教育を受けられる権利を与える義務を持ちますが、子供は必要がないと感じれば、必要以上に受ける義務はありません。
       もっとも、教育を受ければ人間的にも豊かになりますから、受けた方が良いのは確かですが
       スチュアートさんのように、将来のビジョンが出来ているのなら、そちらへ努力を傾けても構わないと思いますよ」

シルヴィアは、なるほどと思いました。

シルヴィア「そっかーなるほどー、でも私今、やりたい事ってあんまりないんですよね。
       そういうのなら、学校通ってた方が良いですよね?」
ブライアン「そうですね、学校は、何かしたい事を見つける場でもありますからね」

スチュアートは、手を頭の後ろで組んでブライアンに聞きました。

スチュアート「そういえば、ブライアンさんは将来何がしたいの?見たとこ大学生みたいだけど」
ブライアン 「私はね、騎士になるつもりです」
シルヴィア 「え、騎士!?」

シルヴィアは、ブライアンは、てっきり芸術家を目指しているものだとばかり思っていたため、驚きました。

ブライアン 「意外ですか?」
シルヴィア 「えーだって、ずっと絵の勉強してたんですよね?マルグリットさんとも、その…あれだし」
スチュアート「え、ナニ?絵の勉強してたのに騎士になるみたいな、変な感じなの?」

ブライアンは、ククと笑って答えました。

ブライアン 「まあ、変と言えば変ですが、私はね、人を救い、守りたいのですよ。
        医者か、冒険者か、騎士か、考えを巡らせた結果…結果と言いますか、アルヴィンと交友があった事が大きいのですが
        騎士となり、戦争のない世界を目指す、と言う事を将来の目標としたのです。
        芸術家への未練がないと言えば嘘になりますが、どうやら騎士となる目標の方が、私には合っているようです」
スチュアート「ほえー、大きい目標だね…俺なんか、誰か個人を守ったりする事ばっか夢中になってたよ」

ブライアンは、右手を広げて言いました。

ブライアン 「いえ、国を守るのも、個人を守るのも、価値は全く一緒ですよ。
        救った人数で価値が変わるなどと言う方が居るなら、それこそ眉唾物でしょう。
        先ほども言いましたが、アルヴィンの存在がなければ、私も冒険者を選んでいた可能性は大いにありますよ」
スチュアート「へーアルヴィンって、アルヴィン6世様?」
ブライアン 「いえ、7世の方です。
        彼とは同期でしてね、将来この国を担う彼の、矛と盾になる決心をしたのですよ」

シルヴィアは、ブライアンの話を聞いて、心配になった事がありました。

シルヴィア「でも、マルグリットさんはどうするんです?心配してないんですか?」

ブライアンは、広げていた右手を閉じて、お腹の辺りに移動させました。

ブライアン「もちろん、彼女は私の最優先事項の一つですよ。
       どんな絶望的状況下でも、『死なない』、『屍肉を食らってでも生き残る』、と言う約束の下、実現した話です」
シルヴィア「そうなんですか〜…」


シルヴィア達の後方7メートル辺りの位置では、ヴィヴィアとベアトリクスが会話をしていました。

ベアトリクス「そういえばヴィヴィア、貴女、騎士になりたいんですって?」

ヴィヴィアは、うなずいて答えました。

ヴィヴィア「うん、一番前の方にシルヴィアさんが歩いてるでしょ?
       あの子の親友にね、ラルちゃんって、かわいい子がいるの。
       その子を守った事があって、私にも人を守る力があるんだなって思って、それがきっかけ」

ベアトリクスは、廊下の天井をぼーっと見て言いました。

ベアトリクス「ふーん、貴女文武両道の割りに、簡単な性格してるものね」

ヴィヴィアは、ジトッとした目でベアトリクスを見ました。

ヴィヴィア「えー、それって、バカって事?」

ベアトリクスは、左手をヒラヒラさせて言いました。

ベアトリクス「そうは言ってなくてよ。
        自分の夢も目標も満足に決められないまま死んでいく人より、数万倍良いわよ。
        まあ、半分私の事だけどね」
ヴィヴィア 「ベアトリクスさん…」

ベアトリクスは、何かを思いついたのか、ヴィヴィアの方を向いてニコッと笑いました。

ベアトリクス「うん、良いわ、私もその夢に乗るわ」

ヴィヴィアは、びっくりしました。

ヴィヴィア「え!?それって騎士になるって事!?」

ベアトリクスは、自信に満ちた笑みをしました。

ベアトリクス「そうよ、んふふ。良いわね、私にもやっと夢が出来たわ。
        素晴らしいじゃない?誰かを守るために剣を振るう、これって、とっても美しくなくって?」
ヴィヴィア 「それは、まあ…そんな気もするけど…もう少し考えた方が良いんじゃない?」
ベアトリクス「いーえ、今更夢は変えられないわ、ヴィヴィア、私達騎士団の2トップになるのよ!
        誰も彼もが私達の美しさにひざまずく世界、良いわ、これよ!ほーっほっほっほ!」

ベアトリクスは、大きな声で高笑いしました。
その声に、係の女性を含め全員がビクッと反応し、ベアトリクスの方を振り向きましたが
ベアトリクスは全く気にせず、そのまま笑い続けました。

そして、ベアトリクスの高笑いが収まったと同時に、15人は、舞台袖へと到着しました。
舞台では、ガスター=ミーンとチャール=チーリンらのパントマイム劇が丁度終了したようで、2人は、舞台袖へと降りてきました。

ガスター「おぅ、階段を降りたら、かわいい女の子だらけだった」
チャール「ほう、これこそ今日最大の喜劇ですな」

2人は、はははと笑いつつ、全員に「がんばれ」と合図を送り、ゲスト待機室へと去っていきました。
それと同時に、ジルベルトのマイクを通した大きな声が聞こえました。

ジルベルト「さぁ、フィオナを代表する2大コメディアンに笑った後は、甘い美声に酔いしれるとしましょう!
       皆様お待ちかね!15人の女神による、歌唱力コンテストだぁ!」

ギャラリー席から、ワーッと言う大きな歓声が聞こえ
その中には、シルヴィア達一人ひとりに呼びかける声も多数混じっています。
15人を先導してきた係の女性は、うんうんとうなずき、15人に声をかけました。

女性「そろそろ、皆さん一人ひとりに、ファンがついて来たようですね。
    ファンの期待を裏切らないためにも、精一杯の歌声を披露しましょう!」
15人「はい!」

ファンが出来ていると知り、ブライアンとスチュアートも腹をくくったのか、控えめながらも、「はい」と答えました。

女性    「そろそろ、ジルベルト様がスーチさんの紹介を始めますよ。
        スーチさん、心の準備をお願いします」
スチュアート「う、うん!」

スチュアートは、顔を両手で軽くぴしゃぴしゃと叩き、背筋をグッと伸ばし、全身を奮い立たせました。

ジルベルト「それでは、トップバッター!参りましょう!ボーイッシュなかわいさがたまらない!
       体は未発達だが、それが逆に良いと言うアブナイ意見が多数寄せられたぞ!
       アイドル資質満点なロリッ子ガール!スーチ=アストンの登場だー!」

係の女性は、「さぁ行ってください」とスチュアートに促しました。
スチュアートは、歯をグッと食いしばり、舞台袖の階段を上がり、小走りで舞台上へと出ました。
スチュアートが姿を現すと、ギャラリー席から歓声が上がり、「スーチ」と言う掛け声が、あちこちから聞こえました。
マイクスタンドにスチュアートがたどり着くと、ジルベルトは続けました。

ジルベルト「スーチが選択した曲は、何と男性ボーカルの曲だ!
       若手No1との呼び声も高い、デージタ=ミースの「ダブ・ステープ」!
       デジタル色の強い難しいこの曲を、ロリッ子スーチはどう歌うのか!おじさんも期待しちゃうぞ!」

そして、曲のイントロが始まりました。
スチュアートは、右足でリズムを刻み、メロディ部分に入ると、曲調に合わせて最初はゆっくり歌い
曲のテンポが急激に上がるサビの部分へ導入されると、マイクをスタンドから外し
激しいブレイクダンスを披露しながら、力強く歌い、10代と20代の若者を中心に、手拍子が沸き起こりました。
曲が終わると、会場は拍手に包まれ、スチュアートを呼ぶ声に溢れました。
スチュアートは、ギャラリー席へお辞儀をし、息を切らしながら舞台袖へと帰っていきました。

シルヴィア 「すごーい、かっこよかったですよ!」
スチュアート「あはは、俺デージタの曲大好きでさ、姉さんと良く歌いに行くんだよ。助かったね…気合入れちゃったし」
ブライアン 「なるほど、能ある鷹はなんとやら、これは私も本腰を入れなければなりませんね」

ベアトリクスは、スチュアートの歌う姿を見てライバル心が芽生えたのか、ヴィヴィアに向かい、自己啓発をしました。

ベアトリクス「ヴィヴィア!私誰にも負けなくってよ!1位を取るわ!貴女は2位を取りなさい!」

ヴィヴィアは、ベアトリクスの強い口調にビクッとし、言いました。

ヴィヴィア「う、うん、頑張るね」

2番手の女の子の曲が終わり、次は3番手、ヴィヴィアの番がやってきました。

ジルベルト「さぁ、次は、ルックス抜群!攻撃的なボディながら、瞳の奥から優しさがあふれ出す!
       お姉さんになって欲しいと言う意見がもっとも多かった!慈愛の姫!ヴィヴィア=エアハートが登場だー!」

ヴィヴィアは、係の女性の合図に合わせて、舞台上へ上がりました。
ヴィヴィアには既に、老若男女を問わず多層にファンが出来ているようで、歓声と共に、あちこちからヴィヴィアコールが出ました。

ジルベルト「ヴィヴィアが歌うのは、国民的歌姫、アリッサ=エイリーの代表曲、「Baby, Baby」だ!
       基本的にはポップだが、歌い方によっては、ロックにもバラードに見せる事も出来る、珍しくも楽しい曲だぞ!
       慈愛の姫ヴィヴィアは、この曲をどう歌うのか!さぁイントロスタートだ!」

イントロが始まると、ヴィヴィアはマイクをスタンドから外し、マイクを右手に持ち、目をつぶって天を仰ぐような姿勢を見せました。
メロディに入ると、左手をゆっくり前に出し、透き通るような伸びやかな高音で、ポップなメロディをバラードへと見事に替え
サビの部分は多少テンポを上げ、やや力を入れた声で歌いました。

全体的に派手さはないものの、聞く者の心をなでるような歌声に、皆が酔いしれました。
曲が終わって数秒間は、誰もが拍手をする事を忘れてしまい
ヴィヴィアがギャラリー席へお辞儀をして初めて、拍手が沸き起こりました。
あちこちからヴィヴィアコールが起こり、ヴィヴィアは照れた笑顔で舞台袖へと戻っていきました。

スチュアート「ヴィヴィアさんすげーッ」
ベアトリクス「やるわね、流石私のライバルと言う所ね」
ブライアン 「ええ、思わず聞き惚れてしまいましたよ」

ブライアンは、両手を軽く広げて、「上手すぎて呆れた」と言う仕草をしました。

シルヴィア「うわーでもずるいなー、スタイルは良いし歌は上手いし…」
ヴィヴィア「もー、あんまり褒めないで!」

ヴィヴィアは、シルヴィアの左肩を、軽くトコトコと叩きました。
ヴィヴィアの後に続き、4番手、5番手、6番手、7番手、8番手の女の子の曲が終わり、次はベアトリクスの番になりました。
ベアトリクスは、自信に満ちた表情で、舞台袖で待機しました。

ジルベルト「さぁさぁ、続きましては、これまたルックス抜群!けしからんスタイルに、サラサラ金髪、釣り目がキュートな小悪魔派!
       何と、奴隷にして欲しいとまで言う男性も現れたぞ!魅惑の女王様!ベアトリクス=ライアンの登場だ!」

ベアトリクスは、係の女性の合図より、自分のタイミングを重視して、舞台へと上がりました。
腰をふりふり魅力的に歩くベアトリクスに、ギャラリー席のほとんどの男性は素直に声援を贈り
女性は、「嫉妬するけど、やっぱりかわいい」と言った、ややお腹に黒い感情を感じつつも、声援を贈りました。

ジルベルト「ベアトリクスが歌うは、ヴィヴィアと同じ、アリッサの「Baby, Baby」だ!
       そして今入った情報だと、ベアトリクスとヴィヴィアは、同じ学校、同じクラスの親友らしいぞ!
       慈愛の姫と魅惑の女王様、もしやこれは、東西対決になってしまうのか!?さぁイントロスタートだ!」

イントロが始まると、ベアトリクスは全身でリズムを取り、メロディ部分に入ると、素早くマイクをスタンドから外し
バラードアレンジをしたヴィヴィアとは対称的に、「Baby, Baby」を、とても激しいハードロックにアレンジし
リズムを刻んだ動きで、舞台の端から端までを目一杯使い自分を表現し、所々高音のシャウトを入れ、サビに入ると
急上昇する会場のボルテージとシンクロするように、サラサラの髪を振り乱したダンスをし、ギャラリーと一緒に盛り上がり
終始盛り上がりゲージをMAXに保ったまま、曲を終了させました。

会場は割れんばかりの拍手に包まれ、ベアトリクスは、息を切らしながら左手でギャラリー席へ手を大きく振って、舞台袖へと戻り
最初に迎えてくれたヴィヴィアと、両手でハイタッチをしました。

ヴィヴィア 「うん、やっぱりベアトリクスさんは凄いね、今までで一番盛り上がったね」
ベアトリクス「とーぜんでしてよ!」

2人の様子を見ていたシルヴィアは、床に丸まってしまいました。

シルヴィア 「うひー、どんどん自信なくなってくよぉ〜」
スチュアート「なーになに、シルヴィアさんも自分をどんどん出せば良いんだよ!」
ブライアン 「なるほどなるほど、これは面白い、私は変化球で行きますか」

床に丸まっていたシルヴィアは、そのままの姿勢でブライアンを見ました。

シルヴィア 「え、変化球?」
ブライアン 「以前、ダンスを少しかじった時に興味が出たジャンルを、今回出してみましょう」
スチュアート「ふーん?」

10番手、11番手の女の子の曲が終わり、変化球を出してみると言った、ブライアンの番が来ました。
ブライアンは、右足首をコンパスのようにクルッと回し、舞台袖へと向かいました。

ジルベルト「そして続くは、長身でスレンダーな体型に、流し目がミステリアスな魅力をかもし出す!
       男性はもとより、女性からの支持がもっとも多かったぞ!幻惑の美女!リアン=コールフィールドだー!」

ブライアンは、合図を出した係の女性に一つうなずくと、颯爽と舞台へと上がっていきました。
右手でギャラリー席へ手を振りながら登場するブライアンに、男性の声援をかき消し、女性の大声援が贈られました。
ブライアンは、マイクスタンドへたどり着くと、イントロが始まる前に、マイクをスタンドから外しました。

ジルベルト「リアンが歌うのは、実力派男性グループ、White Angelの「Don't say, Angel」だ!
       独特の浮遊感が漂うこの曲を、リアンは一体どう表現するのか大注目だ!イントロスタート!」

ブライアンは、イントロが始まると左足でリズムを取り、メロディ部に導入されると
高低音を巧みに使い分けた、レベルの高い表現力を発揮しました。
そしてここからブライアンの「変化球」が発動し、曲の間奏に入ると、ムーンウォークやサイドウォークを駆使した
アニメーションダンスを披露し、サビに入ると、浮遊感のあるメロディに同調し
本当に体が浮いているかのような、滑らかなステップで舞台上を動き回り
観客は、まるでイリュージョンを見ているような感覚に落ち、曲が終わると、大きな拍手と声援がブライアンに贈られました。
ブライアンは、ギャラリー席にお辞儀をし、左手を振りながら、再び颯爽と舞台袖へと戻っていきました。

スチュアート「すげーッ、あれ超練習しないと出来ないやつでしょ?」
ブライアン 「当時、時間の空いた時にコツコツと練習しましてね、こんな所で役立つとは思いませんでしたが」
ベアトリクス「全く、多才でしてね貴女、胸がないのが惜しくてよ?」
ヴィヴィア 「ちょ、ちょっとベアトリクスさん、そういう事言わないの!」

シルヴィアは、また再び床に丸まってしまい、丸まる事で有名な虫、「ディン・ゴシーム」のような姿勢になってしまいました。
13番手の女の子の曲が終わり、シルヴィアの番が一つ近づきました。

シルヴィア 「あ、ダメ!舞台に上がれない位の丁度良い感じで背骨が痛い!」
スチュアート「嘘つくなら、せめてお腹とか痛くなろうよ!背骨ってなんなの!」

そこへ、ベアトリクスが近づいてきました。

ベアトリクス「もう貴女は、勇気があるのかないのか分からないですわね。
        私達5人が最後まで残るって言ったのを覚えていて?私は、貴女の事をライバルの一人として認めたのよ?」
シルヴィア 「ベアトリクスさん…」

ベアトリクスは、厳しい表情から一転、ニコッとした優しい笑顔になりました。
シルヴィアの両肩に手を置き、ぐいっと自分側に引き寄せて言いました。

ベアトリクス「大丈夫、貴女はとっても美しくてよ?歌声もきっと美しいはず。
        自分に出来る精一杯をすれば、必ず上手くいくわ」

シルヴィアは、その言葉に勇気付けられました。

シルヴィア 「う、うん、頑張ります!」

14番手の女の子の曲が終わり、いよいよシルヴィアの番となりました。
シルヴィアは、よたつきながらも舞台袖最前へとたどり着き、後ろを振り返りました。
スチュアートとブライアンは、右手の親指を立て「大丈夫」と合図をし
ベアトリクスとヴィヴィアも、笑顔で応援してくれていました。

ジルベルト「今日最後のチャレンジャーだ!その元気あふれるかわいさは、ミス・フィオナNo1!
       妹になってほしい、今すぐ彼女になってほしいなど、積極的な意見が多数寄せられたぞ!
       プリティ・チアフルガール!シルヴィア=オールディスの登場だー!

係の女性の合図と共に、皆から勇気をもらったシルヴィアは、元気良く舞台へと飛び出していきました。

ラル「シルヴィアー!」

ギャラリー席最前列に居たラルから声をかけられ、シルヴィアはますます元気が出てきました。
両手を振ってギャラリー席にアピールしながら歩き、マイクスタンドの前に立ちました。
「どうせすぐマイクを外すし」と思い、イントロが始まる前にマイクをスタンドから外し、ジルベルトの曲紹介を待ちました。

ジルベルト「シルヴィアが歌うのは、アリッサがアネットに曲を贈ったコラボ曲、「Maximum style」だ!
       ポップ・クイーンの称号を持つ2人から生まれた奇跡の曲、シルヴィアはどう歌うのか!イントロスタートだ!」

イントロが始まる頃には、シルヴィアの緊張はすっかり解けており
「今自分の出来る、最高の姿」を表現しようと思う気持ちで、一杯になっていました。
全身でリズムを取り、メロディ部に導入される寸前に、大きく腹式呼吸で酸素を取り込みました。

「一人で過ごす放課後の教室 お気に入りのメロディ 口ずさみ 君の事を思う 窓から吹く冷たい風
  今は 誰も居ない君の机をながめ そして思う 大好きだよって」

「一人で過ごす私の部屋 君からの突然の電話 高鳴る胸に 何を話したのか 良く覚えていない
  でも 着信記録に残る君の名前 一言だけ覚えてる 大好きだよって」

間奏に入り、シルヴィアは、元気良く全身でダンスをし、ギャラリー席の観客も片手を振り
アイドル歌手のライブの時のような盛り上がりを見せました。
そして曲は、サビに入りました。

「Maximum style 夢を見せるよ 君に見せるこの姿 愛する事を最大限に伝えたい
  Maximum time 夢を見てるよう 君と過ごすこの時 愛する事を最大限に伝えたい」

「Maximum treasure 夢を見せて 君と歩くこの世界 最大限に生きるこの世界
  吹き抜ける風 でも今は とても優しく暖かい たどり着くよ 君と一緒に Maximum style」

シルヴィアは、2番、3番も力の限り歌い切り、曲は終了しました。
息を切らしながらも、客席に向かって手を振るシルヴィアに、観客も精一杯の拍手と声援を贈りました。

ジルベルト「ありがとうございました!それでは、結果発表は、今、この場!すぐに行いますので
       シルヴィアさんは、その場で待機してください!
       そして、14人の女神達!君達も、舞台上へと上がってきてください!」

ベアトリクスを先頭に、今シルヴィアの居る舞台上で演技をした「戦友」達が、シルヴィアの居る場所へと集まってきました。

ベアトリクス「やっぱりやるじゃない、貴女」

ベアトリクスは、シルヴィアの右肩に左手を置いて、ウインクをしました。
シルヴィアは、息が上がっていたため、力いっぱいの笑顔で答えました。

ヴィヴィア 「うん、とっても上手かったし、かわいかったよ!」
ブライアン 「いやはや、全く持って素晴らしかったですよ」
スチュアート「ほんとほんと、好きになっちゃいそうだよ」

スチュアートに好きになっちゃいそうと言われて、シルヴィアは赤面しましたが
何とか笑顔で取り繕いました。

ジルベルト「審査員の方々は、持ち点の100点を、ギャラリー席の皆様は10点を、お手元のボタンで、気に入った子に振り分けてください!
       もちろん全員に満点を差し上げたいのは分かりますが、ここはコンテスト!
       涙を飲んで、心を鬼にしてくださいね!それでは、今より2分間の採点タイムとなります!スタート!」

シルヴィア達にとってこの2分間は、とても長く感じられました。
審査員達は、それぞれが真剣な顔で数値を割り振り、ギャラリー席の観客は、隣に居る人と相談して得点を割り振る人も居ました。
得点の集計が出来、ジルベルトへ、スタッフが得点票を渡しました。

ジルベルト「さて、長らくお待たせしました!むむっ!これは、実に、本当に実に僅差ですよ!
       それでは、最後の戦いへと望む、5人の女神を発表しましょう!
       まずは、ロリッ子スーチ!」

スチュアート「うわっマジでか!」

ジルベルト「慈愛の姫、ヴィヴィア!」

ヴィヴィア 「わぁ!」

ジルベルト「魅惑の女王様、ベアトリクス!」

ベアトリクス「ま、当然でしてよ」

ジルベルト「幻惑の美女!リアン!」

ブライアン「なんと!」

ジルベルト「そしてそして最後は、プリティ・チアフルガール、シルヴィアだ!」

シルヴィア「ひえ!」

結果は、ベアトリクスが望んだ5人が選ばれました。
5人が前列に立ち、5人の後ろでは、10人の「戦友」達が、惜しみない拍手をしています。

ジルベルト「まずは、選ばれた5人におめでとうと申しておきます。
       しかし、安心するのは、まだマッハで早い!このまま続けて、ミス・フィオナ最終戦へと移りたいと思います!
       皆!用意はいいかーッ!」

ギャラリー席から、大歓声が上がりました。

ジルベルト「最終戦は、審査員の方々も、ギャラリー席の皆様も、5人の内一人、一票しか入れられません!
       本当に気に入った、あなたの心を直撃した女神のみへの投票となります!悩んで悩んで悩み抜いてください!
       さぁさぁ、ワタクシの話を聞いている余裕などありませんね!ミス・フィオナ最終戦スタートだ!ボタンを押せーッ!」

ジルベルトがポーズを取ると、大音響のハウス・ミュージックが流れ、最終戦は開始されました。
スポットライトがシルヴィア達5人を照らし、それ以外にも様々な照明効果が会場を彩ります。
綺麗な演出効果に見とれるシルヴィアですが、照明が目に入り、バランスを失い危うく舞台から落ちそうになってしまうものの、側に居たスチュアートに支えられました。
ミュージックが流れてから4分が経ったところで、ジルベルトがアナウンスを開始しました。

ジルベルト「さぁ、ボタンは押しましたか!?残り1分です!5人の運命を決めるその一票!悔いのない選択をお願いします!」

1分が経ち、徐々に音量が絞られ、最終戦の結果が近づいた事が分かりました。

ジルベルト「タイムアップ!それでは、得点の集計に入ります!
       第一回ミス・フィオナの栄冠に輝くのは、一体どの女神になるのか!」

そして、スタッフが、得点票を先ほどのようにジルベルトへ渡しました。

ジルベルト「よし!得点票が来たぞ!むむむぅ、これはさっき以上に僅差だ!
       誰が栄冠に輝いてもおかしくない票だ!しかし、発表しなければいけないのが私の仕事!
       それでは、まずは5位から発表しましょう!」

ジルベルトの次の言葉を待ち、辺りはシーンと静まり返りました。

ジルベルト「第5位!1121票!スーチ=アストン!」

スチュアート「おっと5位か!ここまで来ると何気にくやしいな!」

ジルベルト「第4位!1150票!リアン=コールフィールド!」

ブライアン「なるほど!多少悔しくもありますが、ありがたい事です」

ジルベルト「さぁいよいよ上位3人の発表だ!ここからは一気に行くぞ!
       第3位!1192票!シルヴィア=オールディス!
       第2位!1200票!ヴィヴィア=エアハート!
       そして栄冠の第1位は、1223票!ベアトリクス=ライアンだぁーッ!」

シルヴィア 「うひゃぁー3位取っちゃたよー!…でも2人にはかなわなかった!おめでとう!」
ヴィヴィア 「おめでとう!ベアトリクスさん!」
ベアトリクス「やりましてよ!でも、本当に僅差だったわね」

ジルベルトは、ベアトリクスへ近づきました。

ジルベルト 「ミス・フィオナ、おめでとうございます!今の気持ちを、誰に伝えたいですか?」

ベアトリクスは、3秒程考えて答えました。

ベアトリクス「そうね、両親、と答えたいけど、やっぱり、私に投票してくれたあなた達に、一番感謝の気持ちを伝えたくてよ!」

左手をギャラリー席に向けて大きく振るベアトリクスに対し、会場は大歓声に包まれました。

ジルベルト 「そうですか!賞金の使い道はどう考えてますか?」
ベアトリクス「え、賞金?」
ジルベルト 「そう、賞金200万!」
ベアトリクス「うーん、興味なくってよ、戦争孤児基金にでも寄付してくださいな」

ベアトリクスは、左手をヒラヒラさせました。

ジルベルト 「まさか!本当に!?」
ベアトリクス「元々、名誉のために出たんですもの、それ以上は望まなくてよ」

その言葉に、会場からはベアトリクスコールが沸き起こりました。

ジルベルト 「いやはや、流石にトップに立つ人は考える事が違った!
        しかし、他の皆様は、それぞれ使い道はあるでしょう?」
ヴィヴィア 「え、いえ、私もベアトリクスさんに誘われて、名誉が目的みたいな感じですし、使い道もないので寄付しますよ」
シルヴィア 「私は、元々参加費の1万円だけ目当てで出た感じだし、参加費もらったら満足ですねー」
ブライアン 「私も、寄付をした方が、より有意義と認識していますので」
スチュアート「ワタシもなー、元々シェリーさんの罰でなんか出ただけだし、要らないなぁ」

5人の言葉に、ジルベルトは唖然としました。
ジルベルトが5人を褒め称えようとしたその時、審査員席の一人の女性が立ち上がり、舞台へと上がりました。

ジルベルト「おや、これはFAMのアーシャ様、どう致しました?」
アーシャ 「素晴らしいわ!あなた達!
       あ、失礼、私、フィオナ・オーディオ・ミキサー社代表のアーシャ=クーラと申します。
       今私、チャリティー企画で製作するミュージックの歌い手を探していましたが
       あなた達5人をメインメンバーに組み立てる事にしたわ!」

ジルベルトと5人は、びっくりしました。

ジルベルト「なんとなんと!この場でチャリティーグループが結成されてしまうのか!?」
アーシャ 「どう、あなた達乗ってみない?」

その言葉に、シルヴィアが答えました。

シルヴィア「あーでも、私達それぞれ学校も違うし、他に色々活動してる人も居るし、難しいと思うんですけど…」
アーシャ 「いえ、1曲だけ収録出来ればそれで良いのよ、あなた達は各地を回る必要もないし、CDの売り上げを基金に回す、と言う事にしたいの。
       打算かもしれないけど、FAMの宣伝にもなるから、あなた達に一役買って欲しいのよ」
ブライアン「しかし、私達5人はプロではありませんし、限界があるのでは?」

ここで、ベアトリクスが提案しました。

ベアトリクス「問題なくてよ、私達「15人」で収録すれば、一流のアーティストにも引けを取らないわ」
ブライアン 「なるほど」
スチュアート「あ、いいねそれ」
ヴィヴィア 「私も、皆と一緒に歌いたいなって思います」
シルヴィア 「それなら、ちょっと楽しいかも」

アーシャは、うんうんとうなずきました。

アーシャ「うん、良いわ、それで行きましょう。
      ジルベルトさん、今ここで、チャリティーグループ、「チャリティー・ガールズ」の結成を、アナウンスして頂けますか?」

ジルベルトは、ニッと笑顔になりました。

ジルベルト「よし来た!聞きましたか皆様!今舞台上に居る15人の女神は、手を組んだぞ!
       チャリティー・ガールズの発足だ!皆、拍手で15人を迎えよう!」

会場は、割れんばかりの拍手と大歓声に包まれました。
そして、このミス・フィオナは、フィオナ祭最高のイベントとして、フィオナのエンターテイメント史に残る事になります。

15人で結成された「チャリティー・ガールズ」は、1ヶ月の練習の末
ファーストにしてラストシングル、「ワールド・オブ・メリエル(作詞・作曲:アリッサ 編曲:アネット)」のレコーディングをし
そのタイトルは、1年間もの長期の間、フィオナのヒットチャートの1位を独占する事になります。
そしてその売り上げは、全て戦争孤児基金に寄付され、FAMの名声は不動のものとなり
「チャリティー・ガールズ」は、伝説のガールズグループとして、エンターテイメント界の歴史に残る事になりました。


ミス・フィオナから3ヵ月後、コールフィールド邸にて、ブライアンは自室で、アルヴィン6世の「統合メリエル人」論の論文を書いていました。
シルヴィアから聞いた、「ザンティピー人は悪魔ではない」と言う言葉を受け、論文の加筆修正作業をしていたのです。
しかし、ブライアンには、どうしても気がかりな事がありました。

ブライアン「(…ザンティピー人が悪魔ではないと言う事は、先入観を払拭し、柔軟な思考で考えれば分かる、確かに分かる、が…
        シルヴィアさんの言い方からすると、ブラッドリー=ミルズは、まるで自分が当時、その場に居たような口振りではないか?
        …いや、そんな事はありえない、ありえないはず…だが…)」

ブライアンは立ち上がり、何かを思いつつ、地下にある書庫へと消えていきました。



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