スチュアート「さて、このチケット…どうしたものかな」

スチュアートは、テーブルに並べた10枚のチケットを前に、悩んでいました。

この日、彼は、Tシャツを買いに、フィオナ城下町のデパート「七つ越し」へと出かけました。
「七つ越し」は、高級品もあれば、お値打ち品も多数取り揃えており、幅広い客層へ対応しています。
今回スチュアートは、部屋着として着倒すTシャツを求めていたため、デザインはともかく、安い物を選ぼうと来店しました。

紳士服売り場で、980円のTシャツを適当に3枚選び、レジへ持って行き
合計が2940円だったため、1000円札3枚を出し、おつりももらって、会計を済ませました。
袋詰めされたTシャツ達を連れて、さて帰ろうかと言う段に、ポス係りの女性が、こう切り出したのです。

女性店員  「いつもありがとうございます。2000円以上お買い上げのお客様へ、こちらの福引券をお渡ししておりますので
         是非、8階の福引所にてご利用いただければと思います、よろしくお願いします」
スチュアート「あ、そうなんですか?ありがとうございます」

スチュアートは、「まあどうせ、ポケットティッシュで終わるだろう」と思いましたが、特に急ぎの用事もなかったため
ポケットティッシュをもらいに、3階の紳士服売り場から、8階へとエスカレーターでのんびり向かいました。
福引所へつくと、辺りにはポツリポツリと人がおり、福引のガラガラを回していました。

スチュアート「1位は…へー、ジパン旅行チケットかぁ、結構ふんぱつしてるのね」

最下位は、やはりポケットティッシュだったのですが、7個ももらえる事が分かったため
スチュアートは「微妙に多いな!」と思いつつ、ガラガラの係りの人に、福引券を渡しました。

係りの男性 「はい、ありがとうございます!それでは、右回りでどうぞ!」
スチュアート「はーい、よいしょ」

ガラガラを回して、ポトンと落ちてきたのは、やはり最下位色の「赤」で、スチュアートは「ほらやっぱし!」と思いました。
しかし…。

係りの男性 「『ワインレッド』!おめでとうございます!3位です!」
スチュアート「え!ワイ…?ティッシュじゃないの!?」
係りの男性 「いえいえ、とんでもない!商品は、遊園地『クマネズミーランド』のご招待券です!さぁどうぞ!」

スチュアートは、予想外の展開に戸惑いましたが、落ち着いてチケットを係りの男性から受け取りました。
しかし、なんだか…。

スチュアート「…な、なんか、多くないですか?」
係りの男性 「はい、10名様分ですので、ご家族やご友人、恋人など、お誘い合わせてお楽しみくださいませ」
スチュアート「あ、はあ…あ、いえ、ありがとうございます」

受け取ったチケットをTシャツの入った袋に入れて、スチュアートはその場を後に…する前に、もう一度景品表の色を見てみると
1位「ローズ・マダー」、2位「ローズ・レッド」、3位「ワインレッド」、4位「ルビー」、5位「レッド・アップル」…。

スチュアート「…まあいいか」


家に帰ったスチュアートは、リビングのテーブルに10枚のチケットを並べ、どうしたものかと悩みました。
誘って遊べる友達は、いくらか心当たりはあるのですが、2〜3人ならともかく、9人も同時に誘うのは苦労しそうなのです。

シャルロット「なに悩んでるの?…あら、なに?このチケット」

スチュアートの姉、シャルロットは、自室から台所へ飲み物を取りに来たのですが
途中のリビングで、チケットを並べて困っているスチュアートを見て、声をかけました。

スチュアート「あー七つ越しデパートで福引したら当たったんだけど…姉さんクマネズミーランド一緒に行かない?」
シャルロット「えー、スーチ、友達とか誘っていきなさいよ…この歳で姉弟で遊園地行く?」
スチュアート「いやまーそうなんだけど」
シャルロット「そー言えば、スーチ好きな人とか居ないの?誘って行けば?」
スチュアート「えっ!」

スチュアートは、一瞬、同じ剣術道場に通う、青い髪の女の子が脳裏をよぎりましたが、恥ずかしいので「居ない」と答えました。
しかし、姉のシャルロットは、スチュアートの動揺を見抜き、「これは居る」と確信し
スチュアートのズボンから、携帯電話を匠の早業で抜き取り、アドレス帳を開きました。

スチュアート「あーもう!ちょっ!ダメ!見ないの!」
シャルロット「いーじゃない、減るもんじゃなし、ほらこの「シルヴィアさん」って怪しい!すごい怪しい!」
スチュアート「俺の気持ちがなんか減るの!違うの!そう言うのじゃないの!」

スチュアートとシャルロットは、リビングをバタバタと走り回り、追いかけっこをしていました。


その頃、シルヴィアは、自宅でラルとゲームをしていました。
最近発売された、「モンシロハンターフロンティア」と言う、モンシロチョウが謎のウイルスで変異を起こし巨大化、凶暴化し、人間に害をなす世界で
空中を自由自在に飛び回る能力を得たハンターが、剣や刀、槍、ボウガンなどで巨大モンシロチョウを狩る、ハンティングアクションゲームです。
倒したモンシロチョウからは「素材」を得る事ができ、それで武器を強化し、さらに強力なモンシロチョウを狩っていくのです。

ラル    「モンシロ硬化口吻が出ない…」
シルヴィア「あ、それランク51以上だから、43じゃ出ないよ」
ラル    「そうなの!?と言うかシルヴィア、今ランクいくつなの?」
シルヴィア「今467かなぁ」
ラル    「えーちょっと!これ発売してまだ1週間しか経ってないのに!467!?」
シルヴィア「徹夜とかしたし…」
ラル    「ヒエッ…」

ラルがちょっと引いているその時、シルヴィアの携帯電話から、着信音がなりました。

シルヴィア「あ、電話」
ラル    「うん」

表示されている相手の名前を見ると、「スチュアートさん」と書かれていたため、シルヴィアはドキッとし、顔を赤らめました。
その様子を見たラルは、「あ、スチュアートさんだ」と即座に気付き、思わずニヤニヤしてしまいました。
シルヴィアが「どうしよう」と言う目でラルを見たため、ラルは、「出るしかないでしょ」と促し
シルヴィアは、かすかに震える指で、通話ボタンを押しました。

シルヴィア「も、もしもし?」
女性の声 「あ、シルヴィアさんですか?」

シルヴィアは、スチュアートの声が聞こえてくるものだと思っていたため、女性の声が聞こえてきて、意表を突かれました。
しかし、返事をしないわけにもいかないので、とりあえず名前を尋ねる事にしました。

シルヴィア「あ、はい、シルヴィアです…ええと、失礼かと思いますが、どちら様でしょうか?」
ラル    「(ん?)」

電話の向こうから、明るい声が聞こえてきました。

女性の声  「あ、ごめんなさい!私、スチュアートの姉のシャルロットと申します」
シルヴィア 「あ、スチュアートさんのお姉さんですか!前にちょっとスチュアートさんから、お話をお聞きしていました」
シャルロット「そうなんですかー!良かった!ええとね、シルヴィアさんは、スチュアートの事どう思っ…あ、ちょっ!やめなさ…!」
スチュアート「いーからもう、替わっ…!…あ、ごめん!俺!スチュアートだけど…」

電話口からスチュアートの声が聞こえてきて、ドキッとする反面、安心感のようなものが、シルヴィアの胸に広がりました。

シルヴィア 「あ、シルヴィアです、えーと…」
スチュアート「あー…あのさ、シルヴィアさん、来週の日曜日、俺と遊園地とか行かない?クマネズミーランドなんだけど…」
シルヴィア 「えっ、ク、クマネズミーランドに…わ、私と!?」

シルヴィアの言葉を聞き、ラルは、「デートの誘いだ!」と思い、思わず目を輝かせました。

スチュアート「うん、あーうん、いや実は、福引で、何と言うか10人分も招待チケットが当たっちゃってさ…結構困ってるんだよね」
シルヴィア 「ええ、10人分もですか!?あ、じゃあ、私の他にも…誰か…」
スチュアート「んいや、まだ全然!シルヴィアさんに最初に掛けた感じで」

最初に掛けた相手が自分と言う事で、シルヴィアは、なんだか嬉しくなりました。
もっとも、シルヴィアに掛けたのはシャルロットなのですが…そうでなくとも、スチュアートは、最初にシルヴィアに掛けるつもりだったのでしょう。

シルヴィア 「そうなんですか!あ、えと、私は行けます!…でも、他にも誘わないとチケット無駄になっちゃいますよね」
スチュアート「そーそれなんだよね、せっかくだから使い切った方が良いと思うし、シルヴィアさんは行けるような人、心当たりない?」
シルヴィア 「んー…あ、今そばにラルが居るんですけど、多分行けると思いますよ」
スチュアート「そっか!えーとそれじゃ、これで3人として…姉さんは…あ、行かない?そう…じゃ今3人という事で
        ちょっと行けそうな人考えてみるから、また30分後位に電話しても大丈夫?」
シルヴィア 「はい、大丈夫です!あ、私の方も、行けそうな人考えてみます!」
スチュアート「分かった!それじゃ、後でお互いに情報すり合わせて、行けそうな人に電話してみる感じでいこうか」
シルヴィア 「分かりました、そうしましょう!」


そんなこんなで、都合の合う10人が、「クマネズミーランド」の入場門に集結しました。

スチュアート「いやーついたついた」
シルヴィア 「意外と近かったですね、もっとあると思ってました」

アルヴィン 「あーそれはね、実はクマネズミーランドの運営って、フィオナ王室だったりして、立地条件良いとこ選べたらしいよ。
        なんか、俺のおじいさんの代で作ったって話なんだけどね」
ラル     「あ、そうなの?」

ブライアン 「ただそれは、戦乱に疲れた国民に、広く楽しんでもらえるように、と言う旨を主眼としたもので
        また、地域住民への配慮も欠かさなかったとも聞き及びますし、アルヴィン5世には頭が下がります」
マルグリット「こういう場所でも丁寧語なあなたに、私は頭が下がります」

ベアトリクス「それにしても、シルヴィアさんは王室や芸術人間国宝ともつながりがあるのね…正直、驚きましたわ」
シーヴァー 「うんほんと、驚いたなぁ」

シルヴィア 「あはは、色々偶然が重なった感じなんですけど…ところで、ヴィヴィアさんと一緒に来た方は…」
ベアトリクス「あ、あの子は「デニス」、最近バドルストーンに入ったのだけれど、いつもヴィヴィアにくっついてて
        いわゆる「一目ぼれ」と言うものらしいですわ…ま、ヴィヴィアも嫌ではないみたいですけど」
シルヴィア 「へ〜…」

「デニス」と呼ばれた男の子は、背丈は高くなく(シルヴィアやラルより10cm位低い)、細身で、金髪を長めに伸ばし、青いリボンで留めており
男の子と言うより、「かわいい女の子」と言う印象をシルヴィアは受けました。

ヴィヴィア 「あ、えーと、初めましての方も居るし、自己紹介しますね。
        私はヴィヴィア、ヴィヴィア=エアハートです、よろしくお願いします」
シルヴィア 「あ、そうですね、シルヴィア=オールディスです、よろしくお願いします!」
スチュアート「スチュアート=アストンです、よろしく!」
アルヴィン 「アルヴィン=オデッセウス=ニーグルです…あ、ほんと気軽に絡んでね!よろしく!」
ラル     「ラル=アルカードです、しっぽは引っ張らないでね!」
ブライアン 「ブライアン=コールフィールドと申します、以後よろしくお見知りおきを」
マルグリット「マルグリット=ミールです、よろしくお願いします!」
ベアトリクス「ベアトリクス=ライアンですわ、よろしくお願いしますね」
シーヴァー 「シーヴァー=レインウォーターです、よろしくね!」

場に集まった、デニス以外の自己紹介が終わり、次は彼の番となりました。

デニス  「あ、あ、えーと…」
ヴィヴィア「ほらもう、ちゃんと自己紹介しなさい」

ヴィヴィアは、デニスのおしりをぺチンと軽く叩きました。

デニス「ひゃんっ!…あ、あ、デニス、デニス=レイです、よろしくお願いします!」

そう言うと、デニスは、顔を赤らめて、ヴィヴィアの陰にこそこそと隠れてしまいました。
その姿は、どう見ても「かわいい女の子」で、男子達は、心の中で一つの仮説を立てました。

アルヴィン 「(…男の娘?)」
スチュアート「(お、男の娘?ってやつ?)」
シーヴァー 「(もしかして、男の娘?)」
ブライアン 「(もしか、これが噂に聞く…)」
ラル     「男の娘なの?」
男子4人   「!!」

ヴィヴィアは、困り顔になりながら、デニスに関する説明をしました。

ヴィヴィア 「んー…デニスは、姉が2人居るんだけど、いつも一緒に居て、友達も女の子ばっかりだったから
        女の子風になっちゃった感じで…でも、悪い子じゃないので、仲良くしてあげてください」

それを聞いたスチュアートは、自分も昔、姉のシャルロットしか友達が居なかった事を思い出し
何となく共感する物を感じ、きさくにデニスに話しかけました。

スチュアート「そっかそっかー、分かる分かる…でもあれだー、ここに集まったのは皆良い人だから
        デニス…ちゃん?も、気軽に話しかけたりして、ほんと大丈夫だよ!皆、今から友達という事で!」
デニス   「は、はいっ!」

デニスが、パッチリした目を輝かせて喜んだため、スチュアートは、デニスの頭をなでなでしました。

ベアトリクス「あ、ちなみに、デニスは高校3年生ですわよ」
スチュアート「年上!?」
マルグリット「ちなみに、私は今年50歳、えへん!」
ベアトリクス「なんですって!?」
ブライアン 「それでは、大分面倒くさくなってまいりましたし、そろそろ入場するとしましょうか」
マルグリット「こりゃ!」


10人がクマネズミーランドに入場すると、さっそく、着ぐるみのキャラがお出迎えに現れたため
握手をしたり抱き合ったり、写真を撮ったりと、入場早々、楽しい体験が出来ました。

アルヴィン「えーと、なに、シバレルキャッスルがここで、スプラッシュ…って言うか、ほんと広いな!」

アルヴィンは、入場口でもらった案内図を見て、思わず言葉をもらしました。

スチュアート「ほんと、これじゃ1日で全部回るのは無理っぽいですよねー」
ラル     「うーん、じゃ、皆が乗りたいとこを一つずつ出して、とりあえずそれから乗るとか」
シーヴァー 「それが良さそうだね、別々と言うのもアリかもしれないけど、せっかくだし皆で動きたいよね」

ラルの意見が採用され、各々乗りたいアトラクションを出し、現在地より近い順に乗っていくと言う方針で決定しました。
最初は、ブライアン希望の「体感型3Dシアター」に行く事になりました。

ここは、フィオナ王国の3D技術を駆使したシアターで、映画やゲームの世界へ入り込んだような感覚を体験出来るアトラクションです。
現在は、史上最高のエンターテイナーと評される「ミケル=ジェクソン」のライブを再現しており
あたかも、その舞台上に立っているような感覚を想起させ、ブライアンのみならず、全員が興奮を隠し切れませんでした。

シルヴィア「やー、凄かったですね!」
ブライアン「ええ、大変よい物を見せていただきました」
シーヴァー「うん、でもミケルって故人なんだよね、ちょっとだけ悲しい気もするね」
ブライアン「仕方のない事です、しかし、彼はいまだ記録と記憶に残っている、エンターテイナーとしては本望なのかもしれません」

3Dシアターの次は、ラルが希望した、ジェットコースター「ドドドンガ」に乗る事になりました。
「ドドドンガ」は、最高時速172kmを記録する超高速コースターで、ヘタをすると失神してしまう位の恐怖を体験出来るアトラクションです。

アルヴィン 「ヒエーこれ乗るのか、あのウネリとか凶悪だなぁ」
ラル     「アレ、もしかしてこういうの苦手?」
アルヴィン 「いゃー…苦手と言うか、逆に得意な人って居るの?」
ラル     「私、結構得意だけど」
アルヴィン 「ヒエー」
マルグリット「アル君は男の子なのにだらしないのねー、何なら私なんか一番前に乗っちゃうわよ」

60秒後、見事に失神したマルグリットは、ブライアンに抱きかかえられてコースターから降りてきました。
ベンチで休み、意識の回復に5分を要しましたが、体に異常はないようです。

ベアトリクス「人間国宝でも失神するのね…」
マルグリット「国宝関係ないわよあんなの…作った人どうかしてるわ」
ブライアン 「後先考えず先頭に乗るあなたも、たいがいどうかしていると思いますよ」
マルグリット「ベアちゃん、ブライアンがいじめる」
ベアトリクス「いえ、仲が良いとしか…あら?ところで、ヴィヴィアとデニスは?姿が見えませんわね」
スチュアート「え?あれ?」


ヴィヴィア「あれ?みんなとはぐれちゃったかな?」
デニス  「あれ…みんな居ない…」

「ドドドンガ」は、混雑を避けるため、東西で出口が2つ設けられており
シルヴィア達8人は西側から出ましたが、ヴィヴィアとデニスは、間違って東側から出てしまったのです。
とりあえず、あまり動くと、ますますはぐれてしまうと思ったため、出口付近で待機する事にしました。
しかし…。

デニス  「うー…気持ち悪い…」
ヴィヴィア「あ、デニス?大丈夫?ちょっと休もっか」

デニスは、コースターで酔ってしまい、もう、戻してしまう寸前でした。
ヴィヴィアは、辺りを見回して、トイレの看板を発見しました。

ヴィヴィア「あ、あそこにお手洗いあるね、吐いちゃった方が楽だと思うし、行こう」
デニス  「ごめんなさい…」

しかしながら、男子トイレに、ふらふらと入ろうとするデニスを見て、周りの人は
「女の子が男子トイレに入ろうとしている」と思ってしまい、奇異の目を注ぎました。
ヴィヴィアは、デニスがトラブルに巻き込まれそうで落ち着かなくなり、思い切って、デニスの手を引いて女子トイレに向かいました。

デニス  「え!?あ、ちょっと…こっちは…」
ヴィヴィア「大丈夫、なんかもーこっちの方が自然だし」


シルヴィア「んー…ん!あ、つながった!…シルヴィアです、はい、今皆、西出口近くのベンチで…あ…あーなるほど!
        はい、え!そうなんですかー…デニスさん大丈夫ですか?…うーん、そうですか…。
        あ、はい、分かりました、それじゃ後でまた合流する感じで、はい…あ、いえ、とんでもないです!気を付けてください!はい!」

シルヴィアは、携帯電話の通話を切りました。

シーヴァー 「どう?大丈夫?」
シルヴィア 「うん、東側の出口から降りちゃったらしくて、それで、ちょっとデニスさんが体調悪いから
        近くのカフェで休んでるらしいです…で、少しゆっくりしていくから、また夜のパレードで会おうって感じで
        なんか、申し訳ないって言ってましたけど…」
ラル     「うーん、乗り物激しすぎたか、ちょっと反省」

ラルは、困った顔をしながら、右手の人差し指の第二関節で、右頬をなでました。

アルヴィン 「いやいや、大丈夫、遊園地ではこういうのはつきもんだし…んーと、デニスちゃん体調悪いって、酔っちゃったとかそういう感じ?」
シルヴィア 「あ、はい、でも、大分落ち着いたらしいです」
アルヴィン 「んーそっか、じゃあまあ…大丈夫かな?メインは夜のパレードだし、その時会えるんだしね」
ブライアン 「そうですね、いつでも連絡は取れますし、問題ないでしょう」
スチュアート「んだねー、それじゃこっちは、本線ルートで行こうか?」
マルグリット「そうねー、ところで次はなんなの?」
ブライアン 「えー…同じく超高速コースターの『超究極絶対精神崩壊列車、悶えて氏ね』ですね、中々に楽しいネーミングです」
マルグリット「…今度は後ろの方に乗るわ…と言うか、そんなのリクエストしたの誰なのよ、もう!」

シルヴィアは、目が泳いでいました。

ベアトリクス「それにしても、もーデニスは…こんな事で騎士になれるのかしら…」
シルヴィア 「えっ、デニスさん騎士目指してるんですか?」
ベアトリクス「え?ええ、あの子ヴィヴィアの腰ぎんちゃくだから…」
シルヴィア 「ああ…」


ヴィヴィア「はい、モカリスウェット、気持ち悪い時は、スポーツドリンクって結構良いらしいよ」
デニス  「あ、ありがとう…」

ヴィヴィアとデニスは、園内のカフェ「カフェ・ドゥ・ネコ」で休憩していました。
ちびちびとモカリスウェットを飲むデニスを見て、ヴィヴィアは、「本当に女の子みたい」と思いました。

ヴィヴィア「そう言えば、道場以外で会話って、あんまりしなかったよね、なんだか不思議な感じ」
デニス  「ん…そう言えば…」
ヴィヴィア「今こんな事聞くのもあれかなーって思うんだけど、デニスは何で道場に入ったの?」
デニス  「えっ!あ…それは…その…」

デニスは、顔を赤くしました。

デニス  「…ヴィヴィアが…好きだから…」
ヴィヴィア「えっ?」
デニス  「あっ!いや!違くて…あの、その、憧れてるの、ヴィヴィアの事…」
ヴィヴィア「ええー、憧れ?私を…?そんな要素あるかなぁ…?」

一呼吸置いて、デニスは話しました。

デニス  「あのね、ヴィヴィアって、チャリティー・ガールズに居たじゃない、その頃から私、ファンなの…。
       んん、ほんとは、ミス・フィオナに出てるとこも見てて、その…綺麗だなって思って…」
ヴィヴィア「ええ、ほんと!あの会場に居たんだ!うーん、恥ずかしいなあ…」
デニス  「ん、それで…ヴィヴィアがバドルストーンに居るとこを偶然見かけて、居ても経ってもいられなくて…」
ヴィヴィア「そっかぁ…なんだか嬉しいな…でもデニス、私と一緒に騎士になるって、本気なの?」

デニスは、うなずきました。

デニス  「本気だよ!一緒に居たいの、ヴィヴィアと…」
ヴィヴィア「別に、騎士にならなくても、普段会うことも出来ると思うけど…」

デニスは、首を横に振って否定しました。
ヴィヴィアは、デニスが自分をそこまで慕ってくれていると改めて知り、嬉しいと同時に、こそばゆくなってしまいました。
しかし、どう考えても、デニスが騎士に向いているとは思えないため、ヴィヴィアは、また、困ってもいました。
その時…。

男性の声「お、居た居た!」

金髪で、鎖などのアクセサリーをジャラジャラとつけた、いかにも「チャラい」男が
ヴィヴィアとデニスが居るテーブルへ、突然相席してきました。

デニス   「…?」
ヴィヴィア 「え…どなたですか?何か…?」
チャラい男「いやいやー、さっきドドドンガのとこに居たでしょ?君ほんとかわいいね!」
ヴィヴィア 「え、はぁ…どうも」
チャラい男「でさー、暇だったら俺と色々回ってみない?俺結構ここきてて、アトラクションとか詳しいし
       なんなら、こっちの女の子も一緒に、どう?楽しいと思うけど」

ヴィヴィアは、初対面で、ズカズカと人の領域に入ってくるチャラい男に、嫌悪感を感じていました。

ヴィヴィア「申し訳ありませんが、他にも友人達と来ていますので、私達に構わないでください」
チャラい男「えー?そんな人どこにも居ないじゃん、いーから行こうよ、ここもおごるしさ」

チャラい男は、ヴィヴィアの右手を突然握り、どこかへ連れて行こうとしました。

ヴィヴィア「やっ!ちょっ!何するんですか!」
デニス  「…あ…あ…!」
チャラい男「さて、じゃ、とりあえずどこ行きましょうかね」
デニス  「や、やめて…!ヴィヴィアに触らないで…!」
チャラい男「ん?何か言った?」
デニス  「やめ……やめろーー!!ヴィヴィアに触るなぁーー!!」

デニスは、18年間生きてきて、一番の大声を出しました。
その声に、周りの人がギョッとし、一番近くに居た園内警備員が振り返って近づいてきたため
チャラい男は、「これはヤバい」と思い、ヴィヴィアの手を乱暴に離し、一目散に逃げ出しました。

ヴィヴィア「デニス…あなた…」
デニス  「ヴィヴィアは…私の一番…大事な…」

デニスは、酸欠状態になり、その場にへたっと座り込んで、視界が暗くなってしまいました。

ヴィヴィア「あ、デニス!」
デニス  「…」

次にデニスが目覚めたのは、ヴィヴィアのひざの上でした。
デニスが目覚めるまで、ヴィヴィアはずっとひざまくらをしていたのです。
ヴィヴィアに迷惑を掛けていたと気付き、デニスは起き上がり、謝りました。
ヴィヴィアは、慈愛に満ちた目でデニスを見つめ、こう言いました。

ヴィヴィア「ありがとうデニス…一緒に騎士になろう!…ずっと一緒に居ようね、いつまでも…」



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